TSUKUBA FUTURE #032:文化財レスキュー!~科学を駆使して普遍的価値を守る

芸術系 松井 敏也 准教授
美术品や工芸品、仏像、生活用具など、世界中から集められた文化财が、美术馆や博物馆で気軽に鑑赏できます。このように整った环境で保管される文化财ですら、照明の光や温湿度の変化、见学者による振动などの影响を受け、少しずつ劣化していきます。屋外で风雨にさらされている石像や建造物となればなおさらです。雨风はもちろん、风情を醸し出している苔や地衣类(菌类と藻类の共生生物)なども、文化财にとっては大敌です。かといって、ゴシゴシ洗うのも禁物。壊れたら直すという対症疗法ではなく、文化财が受ける様々なストレスの原因を突き止め、过去に行われた修復や、気候风土、展示方针なども考虑に入れて、保存や修復のための最善策を科学的に探るのが保存科学です。その际、文化财にはできるだけ手を加えずにオリジナルな状态で残すというのが、松井さんのポリシーです。

アンコール遗跡バイヨン寺院に振动计を设置し、観光客の影响も调べている。
机上の书类はその结果を遗跡の配置図にプロットしたもの。
文化财は、もともと歴史や考古学分野の研究対象でした。科学の出番は材料の分析や齿线撮影をする程度と思われがちです。しかし、公共の财产として展示なども含めた长期的な保存処置を施すことが必须。そのためには、材料劣化の状态やその原因を科学的に捉える必要があります。修復するにも、过酷な环境に耐えうる先端材料を使ってしまうと、その部分は强化されますが、それまで受けていたストレスが别の部分に移り、ダメージが広がってしまうことがあります。そこで、次にストレスを受けたときには、补修に使った材料がまず壊れることでオリジナルの材料には影响が及ばないように、むしろ「弱い」补修材を选ぶのだそうです。また、见学者の动线や空调の设定を変えるといった间接的な方法を採ることで、劣化を食い止められる场合もあります。

収蔵品が津波の被害を受けた「鲸と海の科学馆」の潜水具
文化财の劣化は、経年変化によるものばかりではありません。松井さんは、东日本大震灾で津波の被害にあった文化财のレスキュー活动にも取り组んでいます。岩手県山田町の「鲸と海の科学馆」では、鲸の骨格标本や潜水具、捕鲸砲,はては商家の大福帐まで、多くの収蔵品が津波の被害を受けました。海水やそれといっしょに流れてきた生活汚泥による汚れです。その洗浄と復旧のため、学生を伴い、定期的に现地を访れています。収蔵品の多くはもともと海で使われていたものですから、被灾前もある程度は海水の影响を受けた状态で保存されていました。やみくもに洗うのではなく、被灾前の状态に戻すために、资料の成分を分析して、明らかな津波による汚れの成分だけを除去する条件を见つける工夫が必要です。そして再び展示に耐えられる安定した状态に戻すことを目指します。
松井さんと保存科学との出合いは大学院生の时。所属していた精密応用化学の研究室に、奈良文化财研究所から齿线分析の依頼があり、たまたまそれを担当することになりました。鉄の腐食に関する研究をする中で、錆びない材料を开発しようとしていた松井さんは、古代の地层から発掘された刀の錆(鉄酸化物)が现在まで残っていることに兴味を持ちました。その兴味は、「なぜ残ったのか」から「残ったものをどう保存するか」へと移り、大学院を修了后、改めてそのための勉强を始めました。

各地の世界遗产を飞び回る。アンコール遗跡バイヨン寺院にて
松井さんは、世界遗产から地方の博物馆や寺社まで、文化财のある现场へフットワークよく出向きます。富冈製糸场、岩手県山田町、カンボジアのアンコール遗跡、ナスカの地上絵と、まさに世界中を飞び回っています。研究室の学生はもちろん、他の専攻の学生でも、兴味があれば现地のプロジェクトに参加できるようにしています。文化财保护は、保存や修復のテクニックだけで行うものではありません。考古学や歴史、美术、建筑、分析、材料、微生物など様々な分野の専门家や现地の人々とのコラボレーションが不可欠。学生にとっては、リアルな文化财保护活动の进め方を体験し、社会との接点を意识する贵重な机会です。

遗跡表面の着生物を入念に调べる

アンコール遗跡バイヨン寺院にて
现地の修復エキスパートと石材の劣化评価を调査
「文化财はみんなのもの。どの时代のどんな文化财でも、それを守りたいと思う人がいる限り、その意に沿って保存の支援をする」、それが松井さんのモットー。炼瓦、古文书、石仏、陶器、レリーフ、木造船、武家屋敷など、扱う文化财の种类や材质は问いません。新しい保存の手法や补修材の开発も积极的に进めています。保存科学をキーワードに、いろいろな人や文化财との出会いを重ね、研究范囲はどんどん広がっています。
文責:広報室 サイエンスコミュニケーター