TSUKUBA FUTURE #116:社会のニーズに応える新しい炭素材料を生み出す

数理物質系 伊藤 良一 准教授
炭素原子が六角形状に并んで、1原子の厚みの平面を形成したものが、グラフェンという材料です。六角形だけが规则正しく并ぶときれいな平面(二次元)になりますが、ところどころに5角形や7角形が入ると、そこに歪み(构造欠陥)が生じ、平面の中に曲面、つまり、立体构造が形成され、平面の状态とは异なる性质を持つようになります。伊藤さんは、このような叁次元构造を持つグラフェンを设计、合成し、新しい炭素材料を开発する研究をしています。
叁次元グラフェンが特异な性质を持つ理由は多孔质という构造があるからです。多孔质构造は、スポンジのように、中に微细な空洞をたくさん含んだもので、曲面を形成するために多くの构造欠陥が导入されています。构造欠陥の部分に窒素などをドープできる、表面积が大きくなり他の物质との反応场が増える、空洞のサイズを调节して物质の输送性を制御できる、といった特徴があります。また、二次元グラフェンは光をほとんど吸収しませんが、多孔质构造にすると光を95%も吸収します。ですから叁次元グラフェンを水に浮かべておくと、太阳光を吸収し、その热で水を温めることもできるわけです。
伊藤さんはこのアイデアを藻类の研究グループに持ち込みました。このグループは、藻类が产生するオイルなど(藻类バイオマス)を有効活用する研究を行っています。藻类バイオマスを活用するには、水中で藻类を培养した后に、水分を取り除くプロセスが不可欠で、远心分离や冻结乾燥を用いるため、たくさんのエネルギーを消费します。代わりに、藻类バイオマスの表面に叁次元グラフェンを置いておけば、太阳光エネルギーだけで水分を蒸発させてしまうことができる、と考えたのです。実际に共同研究をしてみると、藻类の细胞への热ダメージもなく、効率的に水分の蒸発が促进されました。日照时间が限られるため、大规模なバイオマス全体から水分を取り除くには数日ほど要しますが、なにより手间もコストもかからないのがメリット。叁次元グラフェン自体も再利用が可能です。また、蒸発した水も纯度が高く、回収すれば农业用水や工业用水に利用できることがわかりました。

これまでに、水素発生电极、燃料电池电极、亜铅空気电池、リチウム空気电池、スーパーキャパシタ、
水の蒸発材料、光応答性を持った材料、トランジスタ、などなど、炭素材料を使って様々な特性を実现した
また、叁次元グラフェンと、酸に溶けやすい金属(卑金属)を组み合わせることで、酸性电解液中でも腐食しにくい水素発生电极の开発にも成功しました。卑金属であるニッケルモリブデンのナノファイバーとシリカ粒子で多孔质构造を作り、その表面をグラフェンで覆った材料を电极に用いて、硫酸性水溶液中で水素を発生させると、通常は10分ほどで溶けてしまう电极を2週间も维持することができました。グラフェンにはシリカ粒子由来の小さな穴があり、卑金属を完全に覆わないので、腐食を抑えつつ、电极としての性能も保たれるのです。従来の电极には高価で希少な白金が使われており、これに替わる材料として有望です。
グラフェンを使って様々な材料开発に挑戦してきた伊藤さん。目下の研究テーマは二酸化炭素の固定化です。二酸化炭素の削减は全世界的な课题ですが、排出そのものを止めるのは现実的ではないでしょう。そこで、二酸化炭素を有用な物质に変换すれば、结果的に排出量を减らせる、と考えて研究に取り组んでいます。二酸化炭素からメタノールなどを作る方法は広く研究されていますが、伊藤さんのターゲットは、エネルギー源としてより使いやすく将来性のある水素です。まず、工场などで大量に発生する二酸化炭素を电気化学的に还元してギ酸を作ります。ギ酸は、适切な触媒を入れると低いエネルギーで水素を発生することから、水素を液体として运ぶ新たなエネルギーキャリアになり得ます。グラフェンは、その际の触媒として活跃できそうです。
炭素材料との出会いは、博士课程の指导教员がグラフェン研究の第一人者だったことでした。特に兴味があったわけではありませんが、研究を进めてみると、次々と研究テーマが涌いてきて、奥深さを感じたそうです。确かに、炭素だけでできているのに、构造を変えたり表面を処理することで、様々な机能を追加できるというのは魅力的な材料です。伊藤さんが取り组む研究は、エネルギーや环境など、どれも社会が求める実用的な性能を引き出すもの。そこでブレークスルーをすることが、材料科学者の役割だと言います。まだまだやりたい研究がたくさんあります。

炭素材料は华やかな研究対象ではないが、研究のタネには事欠かない
文責:広報室 サイエンスコミュニケーター