TSUKUBA FUTURE #036:分子の指紋で異分野連携

数理物質系 加納 英明 准教授
物质の构造を分子レベルで観察するにはどうしたらよいでしょうか。分子ひとつひとつを肉眼で见ることはできませんが、光の力を借りると物质の构造に関する情报を得ることができます。光を物质に照射すると分子が振动して、散乱する光の中にもとの光の色と异なる色成分が発生します。この现象は、光の波长と物质に含まれる化学结合の种类に応じて固有のスペクトルとして検出されます。それを読み解けば、分子构造がわかる理屈です。このような分析手法を「振动分光法」といい、可视光だけでなく近赤外光?紫外光などいろいろな波长の光が使われます。そのほかに、赤外光を用いる赤外分光法もあります。
インドの科学者チャンドラセカール?ラマンは、1928年、物質にあたって散乱した光の中に、ごくわずかながら、あてた光と異なる波長の光(ラマン散乱)が含まれていることを発見しました。このわずかな光を用いたのが「ラマン分光法」です。ラマン散乱は非常に微弱なため検出しにくいという難点があります。しかし、有機物でも無機物でも、また、固体?液体?気体のどの状態でも分析できることから、幅広く利用されています。 加納さんは、このラマン分光法を用いた生体組織の観察に取り組んでいます。たとえば、筑波大学附属病院の眼科と共同で、眼組織の分子組成を識別する新しい手法の開発に着手しました。角膜、水晶体、網膜等にレーザー光を照射し、一定の深さごとにどのような分子が存在しているかを分析し、眼組織の分子分布を立体的、三次元的に見ることに成功しています。実験ではラットの眼組織を取り出して測定しましたが、人体に影響のない程度までレーザー強度を適切に調整することで、人の眼に直接レーザー光をあて、分子の組成や分布の違い等から疾患の発見が可能になると期待されます。

ラマン顕微镜を立ち上げる大学院生を见守る

大学院生にラマン顕微镜の操作を指示
ラマン散乱は微弱であるという欠点がありました。加纳さんはそれを、光源にパルス状のレーザー光を用いることで飞跃的に改善しました。照射する光の强さ(ピークパワー)が増すと、物质との相互作用も强まって、観测される光量はぐんと増大します。さらに、いろいろな波长を含んだ「白色」レーザー光を使うと、波长を変えて何度もスキャンしなくても、一瞬で全波长に対するスペクトルが得られるようになりました。この「マルチカラー非线形ラマン分光法」が加纳さんのオリジナリティー。生体组织を(染色することなく)短时间で叁次元的に测定し、分子の空间分布を表すのが特徴です。いずれは、3顿プリンタで分子情报を出力することも梦ではないかもしれません。
近年、生体内の様子を観察する手法として、特定の分子を色素や蛍光タンパクでラベリングし、その分布や挙动を画像で捉える「分子イメージング」が盛んです。生命现象を生きたまま可视化できる技术です。ただし、见えるのはラベルされた分子だけ。それに対して、ラマン分光法を使えば、様々な分子が复数种类混ざっていても、スペクトル解析でその成分が识别できます。加纳さんが目指しているのは、ラベリングをせずに生体をあるがままに観察する「ラベルフリー」の分子イメージングです。予めターゲットを决めない方が、思いもよらなかったもの、すなわち未知の変化や异常を见つけるには有効なのです。

贬别尝补细胞の非线形ラマンイメージングの结果
加纳さんが専门とする、分析方法の开発や装置の性能を上げるための研究は、分析の対象となる材料がなくては成り立ちません。つまり、その材料を研究する人々との连携が不可欠です。その意味で、筑波大学は连携相手の宝库だと加纳さんは语ります。これまでに、颈笔厂细胞やオイル产生藻类などの研究でも连携が実现しています。异分野とのコラボによってラマン分光法の応用范囲が広がるだけでなく、互いの知见が融合されて新しい発见につながる面白さがあります。加纳さんのモットーは、「分子の指纹で异分野连携」です。
ラマン分光法で重要なのはスペクトルを読み取る能力です。振动(ラマン)スペクトルは「分子の指纹」ともいうべきもの。せっかく测定しても、そこから适切な情报を取り出せなければ意味がありません。スペクトルを统计的に解析する手法もありますが、适切な分析结果に到达するためには、ノイズのように见える小さなピークも见逃さない职人的な目利きが求められます。研究室の学生にも、その点を第一に指导しています。研究室から眺める筑波山の轮郭が、加纳さんの目にはラマンスペクトルに见えてしまうそうです。そのこだわりで、様々な分子の指纹を见つけ出しています。
文責:広報室 サイエンスコミュニケーター