TSUKUBA FUTURE #099:自己免疫のスイッチを探して

医学医療系 松本 功 准教授
免疫は、ウィルスや细菌などの异物に抵抗し、病気から体を守るための重要な仕组みです。しかしこの免疫は、しばしばやっかいな挙动をします。异物に过剰反応してしまうと、花粉症などのアレルギーを発症しますし、自分の体内にある物质を异物と误认して攻撃すると、様々な自己免疫疾患を引き起こします。そのひとつが胶原病(こうげんびょう)という疾患群です。中でも最も患者数が多いのが関节リウマチ。ギリシャ语で「流れ」を意味する「リウマ」が语源で、関节の肿れが体内を流れてあちこちが肿れるところから、この病名がつけられました。国や人种、时代に関わらず常に一定数の患者がいる、ある意味、不思议な病気です。日本でも100人に一人が罹患しているとも言われており、中高年の女性に多いとはいえ、若い人でもかかります。

大学ではテニス部の主将として活跃したスポーツ好き
松本さんの専门は胶原病、とりわけ関节リウマチを中心に、诊疗と研究を行なっています。関节リウマチでは、関节の痛みと肿れが続き、悪化すると骨が変形し、他の臓器へも炎症が飞び火して、寝たきりになることもあります。免疫が异常な状态ですから、免疫を抑える薬で治疗をしますが、逆に感染症などを併発することもあり、命を胁かすほどではなくても完治は难しく、一度発症すると、薬で病状をコントロールし続けなくてはならない难病です。
病気を治したり予防するには、発症のメカニズムを知ることが肝心です。けれども病院に来る患者は、すでに発症してしまっていますから、そこに至るまでに何があったのかはわかりません。そこで松本さんは、体内で免疫の元となる抗原が产生されて増幅する、つまり自己免疫が生じる起点を见つけようと、マウスを使って研究しました。筑波大学では、简便に関节炎を惹起できる独自のモデルマウスを开発しています。このモデルマウスは、関节炎を発症してから2週间ほどで最も症状が重くなり、1カ月程度で次第に治癒するので、発症の前后や治癒后の経过を観察することが可能です。
すると意外なことがわかりました。関节炎を発症するときの血液中に、滨罢滨贬4というたんぱく质の中の、ある特定のアミノ酸がシトルリン化された物质(肠颈迟-滨罢滨贬4)が特异的に现れたのです。肠颈迟-滨罢滨贬4は炎症を起こしている関节にも局在していて、関节炎が治るにつれて、その量は减っていました。関节リウマチ患者の血液には、シトルリン化たんぱく质に対する抗体(础颁笔础)が存在することが知られており、これを検出することが诊断では重要とされています。ところが、明らかに症状があるのに础颁笔础が検出されないタイプの患者もいて、诊断がつかないまま适切な治疗を受けられないことも珍しくありません。一方、松本さんらが発见した肠颈迟-滨罢滨贬4は、それまであまり重视されていなかった抗原ですが、础颁笔础が阴性の场合でも検出される上、炎症の程度に応じて増减するため、病状の判断もできる有用なバイオマーカーとなります。现在、この新しいバイオマーカーを临床にフィードバックすべく、さらに研究を进めています。
物理や数学が得意だったという松本さん。しかし、人と接することが好きで、一人で突き詰める学问よりも、内科医への道を选びました。胶原病を専门にしたのは、医学生のころ、重症の自己免疫疾患の患者さんを受け持ち、なかなか良い治疗ができなかった経験があったからだといいます。対症疗法的に痛みを抑える以外に有効な治疗法がほとんどなかった当时に比べれば、今は优れた薬もたくさん登场しており、重症化を防ぐこともできるようになっています。それでも、完治しにくい病気を扱うことは、临床医にとっては覚悟のいることです。だからこそ、研究すべき课题も多く、それがモチベーションになっています。病気の诊断などに础滨(人工知能)が使われる时代になっても、诊疗や研究で培った知识や経験は、础滨に负けない自信があります。
医学において、免疫は昔から重要な分野でした。しかし、正しいと思われていた説が覆されることが多く、教科书が频繁に书き换えられる兴味深い领域でもあります。なので、常に情报をアップデートしなければならず、国际学会などにも积极的に参加しています。松本さんは医师を志した当初から、一人ひとりの患者と向き合い、より良い治疗を実践する「诊疗」と、新しい治疗や予防の方法を见つけ、多くの人々を救うことのできる「研究」の両方に取り组みたいと考えていました。今、その选択に间违いはなかったと确信しています。

留学先だったストラスブール大学病院を再访(2011年)
文責:広報室 サイエンスコミュニケーター
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