TSUKUBA FRONTIER #014:喪失から再生へ こころを守るスペシャリスト
医学医療系 高橋 晶(たかはし しょう)准教授
2008年 筑波大学 大学院 人間総合科学研究科 疾患制御医学専攻 精神病態医学分野 修了
2012年 筑波大学医学医疗系临床医学域灾害精神支援学讲座にて勤务
2016年4月より、筑波大学医学医疗系临床医学域灾害?地域精神医学讲座(茨城県寄附研究部门)准教授
茨城県立こころの医疗センター地域?灾害支援部长?室长、筑波メディカルセンター病院精神科非常勤医师、顿笔础罢事务局アドバイザーも务める。
灾害时の精神医疗
「こころのケア」という言叶をよく闻くようになりました。灾害や事故に遭遇した时に「こころ」が被る伤。身体の伤と同じように、适切な対応や治疗が必要です。特に东日本大震灾の后、経済や物资だけでなく、こころの復兴にも注目が集まりました。2012年、筑波大学に灾害精神支援学讲座が开设された背景には、被灾県であると同时に支援県でもある茨城県という立地もあったのでしょう。
日本は世界でも有数の自然災害大国ですが、灾害时の精神医疗については体系化されておらず、これからの分野です。災害医療の専門家や、世界中で起きている大規模な山火事や地震、水害、テロの発生地などに赴き、知見を集めるところからのスタートでした。その中から見えてきたのは、人がいったん大切なものを失い、再び状況に適応していく「こころの復興」のストーリーがそれぞれにあり、それは共通性をもつということでした。
従来の災害精神支援の流れから、現在はPFA(Psychological First Aid)つまり「心の応急処置」という考え方がトレンドになっています。災害に限らず、紛争や事故などの経験がそのベースにあります。被災地においては、まず衣食住、生活に必要な物資を支援し、被災者の求めるものを直接見聞きして適切なところにつなぎ、そうしてこころのケアに取り組みます。このとき、価値観を押し付けないことが大切です。良かれと思って無理に慰めたり、強いアドバイスをして、こころの傷を広げてしまわないよう慎重に接します。
顿笔础罢出动!
災害時には医療体制もうまく機能しなくなることがあります。大勢の助けられるはずの命が助けられなかった阪神淡路大震災での苦い経験をきっかけに発足したのがDMAT(Disaster Medical Assistance Team、災害派遣医療チーム)です。東日本大震災でも多くのチームが現地に入り、たくさんの命を救いましたが、その一方で、津波から助かった人たちに対するその後の精神的なケアが課題となりました。
こころの支援をするグループはいくつもありましたが、医師や看護師から心理士やソーシャルワーカー、それに宗教家まで、所属も専門性も様々で、活動場所にも、支援内容にも偏りがありました。そこで、質の担保された精神医療の支援チームを派遣する仕組みとして、一元的な指示命令系統の下で活動する、DPAT(Disaster Psychiatric Assistance Team、災害派遣精神医療チーム)が組織されました。精神科医?看護師などの医療者と、物資の調達や他チームとの連絡などのマネジメント業務を担う人材からなる、専門的なチームです。
筑波大学でも2チームを结成し、研修や训练を重ねて整备を进めていた矢先に発生したのが熊本地震でした。顿惭础罢はすでに全国で1000以上のチームがあるのに対し、発足间もない顿笔础罢はまだ100チーム程度。约25チームが1?2週间ずつ交代で活动しますから、まさにオールジャパンでの支援です。もちろん筑波大学からも、県立こころの医疗センターとの协力で3チームが招集?派遣されました。

熊本震災に派遣された茨城県 DPATチームメンバーとともに
医疗をつなぐ长距离リレー
「72时间の壁」と言われるように、灾害时の人命救助は最初の数日间が胜负です。しかしこころの支援は、その后に长く続いていくもの。被灾のショックはもとより、うつ病、アルコール関连精神障害、认知症、トラウマ関连障害、睡眠障害など幅広い精神医疗も必要とされます。顿笔础罢は、避难所や病院を回って医疗活动にあたりますが、その期间だけで治疗が完结するわけではありません。次のチームへ桥渡しをし、だんだんと近隣エリアのチームへ、そして最终的には地元の医疗体制の中へと引き継ぎます。バトンをつなぎながら长距离を走るリレーのような活动です。
精神医疗では、対象者?患者さんが自発的に医师を访ねないこともあります。自分ではこころの不调に気付かないこともしばしばです。いつもと様子が违うことに気付くのは周囲の人たち。そこから医师、医疗へとつながっていきます。これも医疗のリレーです。灾害时は、避难所にいる保健师などが目を配っていますが、日々の家庭や职场でも同じです。こころの健康には、日常的にコミュニティの中で互いに気遣うことが重要なのです。その意味を込めて、「灾害精神支援学」から「灾害?地域精神医学」へと讲座の名称も変更されました。
平时は灾害のために、灾害は平时のために
精神科医を目指したのは、様々な决断を下して行动し、人生を切り拓いていく、という人の脳の働きに兴味があったからです。その仕组みが知りたいと、神経内科や脳外科など脳を扱う医疗の中から精神科を选びました。普段は精神科医として、日常诊察や认知症の诊断?治疗を専门に诊疗にあたっています。
「人生は小さな灾害の连続」とも言えます。私たちはそんな小さな灾害を乗り越えて毎日を生きていく力を持っていますが、时には负けてしまうこともあります。ですから、平时の医疗をしっかり行うことが、灾害への备えになるのです。また、灾害时の経験は平时の医疗にも还元されます。平时と灾害时を连続的に理解すれば、医疗全体のレレベルアップが図られるはずです。日本人は、长い歴史の中で多くの灾害を克服してきました。そう考えると、灾害医学は古くて新しい分野。ただ、地道で根気のいる精神医疗には、まだまだ知见も人材も必要です。
地震、竜巻、水害と、灾害に関连の深い土地柄の茨城県で暮らしていると、灾害精神医学の重要性が実感されます。顿笔础罢活动を通して、全国の医疗机関とネットワークを构筑し、精神医疗の支援体制を强化すること、そして来たるべき灾害に向き合っていけるよう、この分野の先鞭をつけていくことが目标です。

拠点本部で全国の顿笔础罢チームと活动
(文責:広報室 サイエンスコミュニケーター)