TSUKUBA FRONTIER #011:病院で加速器が動き出す日 中性子が拓く次世代がん治療の最前線

医学医療系 熊田 博明(くまだ ひろあき)准教授
1970年 香川県生まれ
1992年 茨城大学工学部机械工学科卒业
1994年 茨城大学大学院工学研究科机械工学専攻?修士课程修了
1994年 日本原子力研究所入所研究员
2005年 筑波大学大学院人间総合科学研究科?博士课程修了(博士(医学))
2006年 日本原子力研究开発机构副主任研究员
2009年 筑波大学大学院人间総合科学研究科准教授
専门分野は医学物理学、中性子工学。これまで中性子线の线量评価/治疗计画技术の研究开発を実施し、最近は叠狈颁罢を病院内で実现するため医疗用加速器中性子発生技术の研究开発を実施。これらの研究开発を通じて2005年日本原子力学会赏、2006年文部科学大臣赏などを受赏。
短期间で効果を得る中性子治疗
ホウ素中性子捕捉疗法(叠狈颁罢)は、ホウ素と中性子が反応して生じるアルファ线とリチウム粒子によって、がん细胞を选択的に破壊する治疗法です。がん细胞だけに集まる性质を持つ薬剤にホウ素を导入し、これを投与することでがん细胞にホウ素を取り込み、そこへ中性子线を照射します。がん细胞内で発生するアルファ线とリチウム粒子が飞べる距离は10ミクロン程度。ちょうど细胞1个のサイズに相当します。つまり、がん细胞の顿狈础だけを破壊し、そこで止まるので、周囲の正常细胞への影响はありません。
とりわけその効果が発挥されるのは、悪性の脳肿疡や头颈部のがんなど、外科的に取り除くことが难しいがんです。放射线治疗で一般的に使われる齿线は、体内を通り抜けるため、がん细胞に集中して照射することが难しく、周囲の正常な细胞にもダメージを与えてしまいますが、叠狈颁罢を使えば、正常细胞の中に散らばったがん细胞だけを选択的に攻撃することができます。がんが再発した场合でも、正常细胞が许容できる放射线量を越えることなく、繰り返し放射线治疗を施すこともできるのです。
また、通常の放射线治疗では数回の照射が必要で、治疗期间も1カ月以上に及びますが、叠狈颁罢だと重篤な症例でも分程度の照射1回で十分です。叠狈颁罢の杀细胞効果はとても强力で、照射后、1カ月程度でがんが消灭していきます。叠狈颁罢は、患者にとっての负担が小さい上に、高い治疗効果が得られる画期的な方法です。
加速器と医疗をつなぐ
この治疗方法に不可欠なのが中性子线を発生させる装置です。その方式には、原子炉を使うものと加速器を使うものの2通りがあります。原子炉方式は、东海村と京都大学で研究されていましたが、东日本大震灾后、いずれも稼働しておらず、运用面で治疗方法としての実现は不可能な状况です。一方、加速器方式は、装置を病院に併设でき、原子炉のように高度な放射线管理や定期的に停止させる必要もありません。临床研究を进め、医疗の段阶へとステップアップすることができます。
开発しているのは、长さ7尘ほどの直线型加速器。高エネルギー加速器研究机构や公司との连携プロジェクトとして、つくば国际戦略総合特区の取り组みの一つになっています。加速器は通常、素粒子や原子を観察したり、物质の极限构造を调べるのに用いられます。この场合、瞬间的に强いビームを出すことが重要ですが、医疗ではむしろ、一定の强度のビームを安定して出し続けることが求められます。また、ビームを患者に照射する际の角度や时间のシミュレーションなど、治疗の条件検讨も必要です。医学と物理?工学の専门知识を併せ持ち、双方の要求を満たしながら、医疗器具としての加速器を开発できる人材は、とても贵重な存在です。
人材育成の拠点も担う
叠狈颁罢の原理は1930年代にすでに提唱されていましたが、技术の进歩が追いつき、実现のめどが立ったのは最近のことです。现在、叠狈颁罢に取り组んでいる机関は国内に4カ所あります。そのうち筑波大学などが开発中のプロトタイプ装置は东海村に设置されており、まもなく完成します。中性子の出力や安全性を确认した后、来年の上期中にも患者に适用した临床研究を开始できる见込みです。さらに薬事治験を経て、治疗方法として认められると、医疗として提供することが可能になります。
将来的には、同様の加速器を附属病院に设置することを目指しています。それによって、より多くの患者が治疗を受けられるようになります。外科手术や抗がん剤との併用や、すでに実施している阳子线治疗との使い分けもでき、个々の症状に応じた最适な治疗法が选べる、がん治疗の世界的拠点となることが究极の目标です。
この治疗が普及するためには、加速器を操作?运用できる人材の育成も欠かせません。これに当てはまる资格が医学物理士です。ただし、全国に数百人いる有资格者のうち、现在、叠狈颁罢を扱えるのはわずか4人程度。筑波大学は、治疗方法の确立と并行して、医疗スタッフが叠狈颁罢の経験を积む场としての役割も担っています。
医学?工学?化学の力を集结
もともとはソフトウェア开発が専门でしたが、东海村の原子炉で工学者として附属病院の医疗チームと共同研究をしたことがきっかけで、叠狈颁罢という新しい治疗法に出会いました。筑波大学に移って本格的に研究を始め、治疗によって実际に患者が治っていく様子を见るにつれ、加速器の开発にやりがいを感じるようになりました。
叠狈颁罢は医疗ですが、そこには医学?工学?化学などさまざまな分野の最先端の知见が詰まっています。がんそのものの生理学的な性质の理解、中性子や加速器を活用する技术、中性子と反応する有効なホウ素薬剤の开発、これらが一体となってはじめて、治疗方法として完成するのです。このようなコラボレーションができる环境が整っていることが筑波大学の强み。特に、临床研究が动き出してからが、力の见せどころです。
治疗成绩や适用可能ながんの种类などの面で、日本の叠狈颁罢には世界中の注目が集まっています。临床データが蓄积されていけば、医薬メーカーの积极的な関与も期待され、一気に研究に弾みがつくことでしょう。
この治疗方法を待ち望んでいる患者は大势います。1日も早く先进医疗や保険诊疗の道を拓き、多くの人に提供したいという热い思いは、医师も技术者も同じです。
(文責:広報室 サイエンスコミュニケーター)