TSUKUBA FUTURE #008:芸術的なフリーキックを科学する

体育系 浅井 武 教授
サッカーJリーグ开幕から20年。筑波大学はゴン中山こと中山雅史さんほかたくさんのJリーガーや日本代表选手を辈出しています。
サッカーの人気は世界的に相変わらずですが、近年の倾向として、ボール、ユニフォーム、シューズなどのデザインや色彩が派手になってきています。例えばボールは、昔は白一色でしたが、1960年代から、黒い五角形のパネル12枚と白い六角形のパネル20枚を张り合わせたボールが一般的となり、カラフルなデザインも登场するようになりました。また、製造法の改良も进み、完全な球形に近いボールの製造が可能になりました。その结果、ボールの空気特性も変わってきました。

2012年科学技术週间に开催した
筑波大学キッズ?ユニバーシティ特别授业「フリーキックの科学」の一こま
浅井さんは、筑波大学サッカー部の选手时代はサイドバックのプレーヤーでした。研究者、指导者となって以降は、コーチング学のほか、キックの技术、肉体の科学など、スポーツ科学の研究に取り组んできました。キックしたボールの速さと飞距离は、足のどこでどれだけのインパクトでボールを蹴るかで决まると浅井さんは言います。つまり、スピードと距离を出すには、足のできるだけ硬い部分で、できるだけ速いスピードで蹴ればよいというのです。単纯に闻こえますが、それに回転やコントロールをつけて自在に操るためには、筋肉を锻练すると同时にテクニックを磨くための练习をするしかありません。単调な练习をこなすには、目标を持って効率的に取り组むためのコーチング法も重要です。もちろん、シューズも関係してきます。浅井さんの研究は、メーカーとの协力の下、シューズの改良にも広がりました。そしてさらには、サッカーボールの飞び方に関する研究にまで。

歴代の贵滨贵础公式球。緑のボールが「カフサ」。

「カフサ」と浅井さん。スポーツ用具が并ぶ研究室には、アインシュタインのポスターも。
贵滨贵础(国际サッカー连盟)公认のサッカーボールは、ワールドカップのたびにデザインが更新されてきました。最近の大きな変更は、2006年のドイツ大会でした。それまで五角形のパネル12枚と六角形のパネル20枚、计32枚のパネルを张り合わせたボールから、14枚のパネルを张り合わせた「チームガイスト」というボールが登场したのです。そして2010年の南アフリカ大会では、パネルの数が8枚に减った「ジャブラニ」というボールが採用されました。
パネル数の减少は真の球形に近いボールという开発目标を突き詰めた结果です。しかし、球形に近づいて空気抵抗が减ったことで、无回転キックをした际、ボールが予期せぬブレ方をするという特徴を持ってしまいました。本田圭佑选手の无回転シュートを思い出す人も多いことでしょう。しかし予测不能のブレ方をすることは、メーカーとしては不本意なはず。ロンドンオリンピックの公式球「アルバート」では、技术的な改良を加えた上で、再び32枚の変形パネルを张り合わせたボールになりました。2013年の闯リーグ公式球でブラジルで开催されたコンフェデレーションズカップ2013でも使用された「カフサ」もそれと同じく32枚のパネルを张り合わせたボールです。


筑波大学自慢の风洞実験装置
浅井さんは、山形大学との共同研究で、「カフサ」の空気力学(空力)特性を计测しました。筑波大学にはスポーツ用具の空力特性を计测できる风洞実験施设があります。これは、最大风速毎秒55メートル(时速198キロ)まで出せるほか、微妙な调整も可能な国内有数の风洞実験装置です。この装置を用いて测定した结果、カフサは、中速领域(时速40?68キロメートル)ではガイストやジャブラニよりも空気抵抗が小さくてスピードが出やすい一方で、高速领域(时速72?104キロメートル)ではガイストやジャブラニよりも空気抵抗が大きいことがわかりました。また、初速が时速60キロメートルではカフサの方が飞距离が长く、初速が时速100キロメートルではカフサの飞距离の方が短くなることもわかりました。あえて言うなら、カフサは、日本代表のように、中速领域での速いパス回しに有利なボールで、高速のロングボールを相手阵地に蹴り込んで攻め上がる作戦ではジャブラニなどの方が有利なようです。また、种类の异なるボールの比较から、パネル接合部の総延长距离が长いほど、予测不能なブレを生む乱流が発生しにくいこともわかりました。パネル数32枚に戻ったカフサは、パネル数14枚や8枚のボールよりもパネル接合部の长さが长いことから、ブレ球になる可能性が少ないことになります。

研究を委託されたロンドンオリンピック日本代表自転车チームのユニフォーム
浅井さんの研究対象は、自転车竞技やスキージャンプのウェアの空力特性にまで広がっています。研究室には各种サッカーボールのほか、さまざまなスポーツ用具が所狭しと并んでいます。そして壁には、アインシュタインのポスターが。そのわけを闻いたところ、ポスターに添えられた「数学が苦手でもくよくよするな」というアインシュタインの名言がぐっと来たのだそうです。空力特性の研究には、スポーツ科学だけでなく、数学を用いる流体力学の素养が必要です。必ずしも数学を得意としない浅井さんにとって、アインシュタインのその言叶が座右の铭とのことでした。サッカー选手へのアドバイスを求めたところ、用具はさておいて、上达するには合理的な练习に尽きるそうです。サッカーに限らず、肝に铭ずべき言叶です。
文責:広報室 サイエンスコミュニケーター