TSUKUBA FUTURE #083:海洋の微生物の営みから地球の炭素循環を探る

生命環境系 大森 裕子 助教
海は、二酸化炭素の巨大な贮蔵库だといわれます。海水中の二酸化炭素を活用して、植物プランクトンは光合成を行い、糖などを含む多様な有机物を生产します。植物プランクトンは、动物プランクトンや鱼などに食べられます。その死骸や排泄物は、バクテリアなどによって分解され、二酸化炭素へと戻っていきます。その一方で、分解されなかった死骸は、マリンスノーとなって沉下し、海底に降り积もっていきます。海洋と大気とのダイナミックな物质循环が成立しているのです。
大森さんは、海水中の微生物由来の有机物が海洋生态系の中でどのように循环しているかという动态の研究からスタートしました。海水中の有机物としては、上记の光合成产物のほかに、溶存态有机物と呼ばれるものがあります。溶存态有机物がもつ炭素量は、陆上植物の炭素量に匹敌し、地球上で重要な炭素の贮蔵库としての役割をもっています。したがって、大気中の二酸化炭素量増加に伴う地球温暖化を考える上で重要な存在です。しかし、その成因と动态には多くの谜が残されています。

「小っちゃい生きもののくせになんて大きなことしてるんだと、日々惊いています」と语る
溶存态有机物は植物プランクトンの光合成を出発点としています。光合成によって作られた溶存态有机物の多くは、バクテリアに取り込まれて分解されます。大森さんによれば、それらは「おいしい」有机物であり、物质循环のサイクルに乗っていきます。ところが、海水中に存在している溶存态有机物の大半は、バクテリアにも利用できない、いうなれば「おいしくない」有机物です。この「おいしくない」有机物が、数百年から数千年もの间、海水中に大量に滞留しているのです。しかし、そもそもこれを作っているのはどの生物なのかさえ、长らくわかっていませんでした。现在は、大森さんの先生にあたる滨健夫教授などの研究により、バクテリアの代谢产物らしいことがわかってきました。つまりバクテリアは、有机物の分解者であるのと同时に、「おいしくない」有机物の生产者でもあるということになります。大いなる谜を秘めた海洋にふさわしい、とても面白い発见です。広大な海の中でバクテリアが作り出している溶存态有机物の挙动を调べるために、大森さんたちは、下田临海実験センターに设置した400リットル、20リットルの海水タンクを用いた実験を行っています。
大学院を修了した大森さんは、一时、国立环境研究所の博士研究员となり、海と大気の相互作用に関する研究に従事しました。植物プランクトンやバクテリアが生成する硫化ジメチルという物质を追ったのです。ちょっと硫黄くさい、独特の磯の香り、その元が硫化ジメチルです。硫化ジメチルは海水に溶けにくいため、溶けきれなかった大量の硫化ジメチルが大気中に放出され、酸化されて、やがて硫酸塩に変化します。そしてこの硫酸塩が云の元となる粒子になり、云の形成につながるといわれています。つまり、海洋の小さい微生物によって作られる有机物が、地球の気象に影响を及ぼしているのです。大森さんたちは、研究観测船に乗り込み、硫化ジメチルの海洋から大気への放出量を実计测する新しい手法を开発?実用化しました。そして、硫化ジメチルの放出量に関する従来の推定値と大森さんたちの実测値の比较を行い、気候システムモデルの质向上に贡献しました。
大森さんが海に兴味をもったのは、中学2年のときに、叁宅岛で开かれたサマースクールに参加したことがきっかけでした。海洋生物学者の指导で海と山の観察会を楽しんだ大森さんは、すっかり海の魅力にはまってしまったとか。叁宅岛の火山喷火が起こる前年のことで、その后、思い出がなおいっそう美化されたような気がするそうです。大学では海の生き物を研究したいと思うようになっていたところ、筑波大学には「生物学类」というコースがあり、そこでは「水圏生态学」という分野を学べることを知りました。滨先生との出会いでした。南极海に行くという梦は未だに実现していませんが、これまで参加してきた太平洋の観测航海はわくわくの连続です。船上での観测や実験室で行う培养実験を通して、小さな生きものが大きな海でやっている仕事を追跡しながら、日々惊きに打たれているそうです。

硫化ジメチルの量を测定するための観测装置を準备中の光景。手すりの向こうに测定装置の先端が见える。
文責:広報室 サイエンスコミュニケーター