TSUKUBA FRONTIER #019:コミュ二ケーションする微生物たち その「言語」を読み解き、人類との共生の新たなフェーズを拓く
生命环境系 野村 畅彦(のむら のぶひこ)教授
1995年 広岛大学大学院工学研究科博士课程修了 博士(工学)
1996年に筑波大学に着任して以来、微生物代謝やバイオフィルムに関する研究を続け、2013年より現職。その間、国立環境研究所、米国Dartmouth Medical Schoolの客員研究員等も務める。2015年に開始した闯厂罢/贰搁础罢翱野村集団微生物制御プロジェクトでは、研究総括として、集団微生物の全貌解明に挑むとともに、若手研究者の育成や分野横断的な研究体制の推進にも力を注いでいる。
地球の覇者、微生物
约46亿年前の地球诞生から数亿年后、最初に出现した生命体が単细胞の微生物です。多细胞生物が诞生するのが约9亿年前ですから、地球の歴史上、ほとんどの期间は微生物しかいなかったわけで、その间に何度も生じた大きな环境の変动にも耐え、多细胞生物が生まれても絶灭することはありませんでした。それどころか微生物は、植物にも动物にも、もちろん人间の体内にも入り込んで生き続けています。
最近注目されている肠内细菌もそのひとつ。つまり微生物は、人间が生きるために不可欠な役割を担っているのです。そのような重要な机能は、进化の过程で人间の遗伝子に组み込まれてもよさそうですが、微生物に頼る仕组みになっています。そう考えると、地球上の生物を维持し、支配しているのは微生物だということもできるでしょう。
微生物は眼に见えないサイズで、空気、水、土、さらには普通の生物なら生きていられないような过酷な环境中にまで无数にいて、どんなに気をつけても接触は避けられません。病気の原因など好ましくない影响もありますが、むしろ微生物のことをよく知り、彼らの能力をうまく制御しながら共存する方が贤明です。そのための研究プロジェクトが进められています。
「集団」として微生物を捉える
一方、人类はその存在を知るずっと前から、発酵や醸造など、経験的に微生物を利用し、文明を筑いてきました。顕微镜ができて、1680年に微生物として认识されると、抗生物质など积极的に活用するようになりました。人类の発展には、微生物の恩恵を受けた侧面があることは否めません。
微生物そのものも研究され、それぞれは単细胞ですが、単独で行动するのではなく、何亿もの个体、しかもいろいろな种类の微生物が集まって存在していることがわかってきました。人间に例えると、异なる民族や人种、さらには犬ぐらいに离れた种までが、一つの集団に含まれています。それらは互いに助け合ったり、时には戦ったりしながらも、全灭するようなことはなく、集団を保っています。
このような微生物の集団を「バイオフィルム」といいます。フィルムとはいっても平面とは限りません。立体的な块になるなど、环境に応じて様々なパターンを形成し、あたかも全体として一つの多细胞生物のような挙动を示します。植物の叶の里や池の中などにヌルヌルしたものを见たことがあるでしょう。それがバイオフィルム。自然界のどこにでもいるのです。
高度なコミュニケーション
集団内での助け合いや争いは、どのように行われるのでしょうか。微生物たちは神経细胞ニューロンのようにネットワーク状につながります。そうして集団になると、细胞の外にいろいろな化学物质を放出します。これがヌルヌルの正体であり、彼らの「言语」です。ベシクルという粒子の中にメッセージを入れて花粉のように飞ばし、集団の外にいる细胞に届けることもできます。この化学物质を受け取ると遗伝子にスイッチが入り、特定の行动として现れます。遗伝子操作でその作用を阻害すると、集団が形成できなくなったり、环境変化への适応力が低下してしまいます。特に脳に相当する部分は存在しませんが、コミュニケーションによって集団の统率がきちんととれているときに、微生物はその力を発挥するのです。研究プロジェクトでは、このような微生物のコミュニケーションの仕组みを発见し、世界中のバイオフィルム研究に拍车をかけました。
微生物の言语には、英语のように异种间でも通じる共通语もあれば、特定の种类にしか通じないものもあります。マルチリンガルや、おしゃべりだけれど话を闻かない、周囲と同调しないなど、微生物にもいろいろな个性があり、それらがひとつのバイオフィルムの中で共存している様子は、多様性に富み、高度なコミュニケーションが成立している一种のコミュニティ。単细胞の小さな生物が何十亿年も生きながらえてきた秘诀が詰まっているのかもしれません。
イメージング解析
バイオフィルム研究が进展する背景には、近年の解析技术の発达があります。従来は、细胞を壊して遗伝子を解析するという手法が用いられていましたが、共焦点顕微镜を使って、染色などをすることなく、生きたままの集団の动きをリアルタイムで観察できるようになりました。また、集団を构成する个々の细胞に着目することも可能です。このようなイメージング解析技术でも、このプロジェクトは世界トップクラス。例えば歯の表面で微生物がどんどん増える様子や、薬剤を入れたときに、集団内で爆発のようなことが起こったり、细胞が外侧からはがれていく様子などを、叁次元で捉えることができます。
百闻は一见に如かず。画像や动画は、谁にでも直感的に理解できる形で研究成果を示すために重要なツールです。そのベースとなる解析技术の开発は、これからの微生物研究には不可欠な要素です。そこで必要なのは生物学に加えて物理学や工学。さらに、コミュニケーションを理解するためには、化学や情报学の知见も駆使しなくてはなりません。研究プロジェクトには、そういった分野の研究者も含まれています。
微生物とのスマートな共生に向けて
微生物を使った水処理は1900年代の初めから行われていますし、最近では花粉症対策として乳酸菌を摂取するなど、特定の微生物を体内に取り込んだり排除したりして健康増进を図ることも盛んです。しかし私たちはまだまだ微生物の本当の能力を知りません。下水にしろ、肠内にしろ、彼らは自分たちが住み良い环境にしたいだけですから、人间が求めるレベルまで力を出す必要はないのです。
微生物の言语を理解したり、外的な刺激に対する反応を知ることは、人间が彼らとコミュニケーションする术を手に入れること。集団の一员のようにして微生物にメッセージを届け、本来の力を発挥させたり制限できるようになれば、有用か厄介者かという両极端な扱いではない、もっとスマートな微生物との共生関係が筑かれるはずです。
微生物を知れば知るほど、その生存戦略の緻密さに圧倒されます。生命とは何か、どのようにして维持していくべきか、最も単纯で身近な生物が教えてくれることは、深い示唆に富んでいます。
闯厂罢/贰搁础罢翱野村集団微生物制御プロジェクト
集団微生物の挙动や微生物间の相互作用を解明するために、野村畅彦教授の指挥のもと、2015年から5年间に渡って本学で実施されている研究プロジェクト。科学技术振兴机构(闯厂罢)の戦略的创造研究推进事业総括実施型研究(贰搁础罢翱)のひとつで、5つの研究グループで构成され、大学院生も含め総势50名ほどの研究者が参加する。
(文責:広報室 サイエンスコミュニケーター)
(2017.10.10更新)