TSUKUBA FUTURE #071:凍土を掘って山を究める

生命環境系 池田 敦 准教授
日本アルプスやスイスアルプス、ヒマラヤなどの山岳地は、プレートがぶつかる地域で、ダイナミックな地殻変动によって形成されてきました。しかし山の地形は、地殻変动による隆起以外にも、地中や地表のさまざまな物理现象の影响を受けています。池田さんは登山が好きで、日本の山で森林限界を越えたときに広がる独特な地形は氷河が広がった时代に作られたという话に魅了されていました。スイスアルプスなら、日本にも1万年前まではあった寒冷环境を実测できる。大学院の指导教授のアドバイスで选んだのが岩石氷河と呼ばれる地形でした。寒冷な环境下にある倾斜地に発达する舌状の地形で、表面が岩くず(砾)で覆われ、氷河のように流动することからそう呼ばれています。その长さは数十メートルから数キロ。移动速度は年间数センチ以上もあります。

スイスアルプスの岩石氷河。点線内の部分にある厚さおよそ10 mの永久凍土が、
矢印の方向へ年1 m前後の速さで動いていた。その動きは、この凍土がとても柔らかいことを示す。
深さ2.2?2.7 mまで掘ったところ、氷漬けの礫層(上の写真)が現れた。下のスケール(黒線)は10m。
これはという岩石氷河の测量をした上で、穴を掘り、地中の温度测定などから研究を开始しました。岩石氷河の中は冻っていて、その氷が水飴のように形を変えることでとてもゆっくりと流动しているとされていました。ところが実测した流动は、従来の「ゆっくり」変形説の枠内では説明しきれない速さでした。温暖化によって地中の氷が融けはじめる寸前には、氷の単なる変形だけでなく、歪んだ氷の隙间に水が入ることでさらに动きやすくなっていたのです。
一方、岩石氷河の成因については诸説ありました。主なものとして、そもそも氷河の上に砾が积もったものにすぎないという説と、砾が积もった地层の中に氷が発达した永久冻土だという説がありました。観测を続けた池田さんは、多くの岩石氷河は后者にあたると结论しました。ただ、永久冻土説を推す研究者の多くは、地中の氷は霜柱のように地中の水分が上昇して冻ったものだと考えていました。しかし池田さんは、积み上げた状况証拠から、まれに上から崩れてくる土砂が残雪の上を覆うことで、土砂がなければ融けていたはずの雪が融けずに岩石氷河を太らせると主张しました。
长い时间をかけて地形を造る地质现象は、现在の観测だけでの実証が困难です。しかし池田さんの仮説は、直后に别の研究者によってあっさりと里付けられました。北极圏の鉱山町で、雪が降る前に岩石氷河の一部をシートで覆ったところ、その上に积もった雪が、春先に土砂に覆われると融け残ることが観测されたのです。しかも地下の坑道により、岩石氷河の内部构造がその実験结果とよく合うことも确认されました。

スイスアルプスを掘る
池田さんにとって、スイスや北极圏はまさにアウェイです。そこでフィールドを日本に求めることにしました。目をつけたのは富士山。ちょうど、富士山の永久冻土が温暖化のせいで融けはじめているとの报道があった顷のことでした。しかし、永久冻土を実际に掘って确かめた人はいませんでした。そこで池田さんは、北海道大学の研究者とタッグを组み、富士山顶の永久冻土がありそうな场所を掘ることにしました(もちろん许可申请をした上で)。ところが、2本の穴を深くまで掘っても见つかりません。3本目でやっと见つかりました。なぜなのだろう。台风による降雨が容易にしみ込むせいで、富士山顶の多くの场所では永久冻土は存在できない。永久冻土が存在するのは、雨水が浸み込みにくい场所だけである。近年の温暖化のせいで夏には见られなくなった冻土は、永久冻土ではなく、冬のたびに表层にできる季节冻土だった。これが、池田さんたちの出した结论です。ただし富士山の永久冻土が温暖化でどうなるかについては、さらに何十年といった期间で见る必要があります。

富士山を掘る
ここ3年ほど、池田さんは、富士山などでの定点観测を続ける一方で、高等学校地理叠の教科书执笔に力を入れてきました。改定作业に参加して惊いたのは、地理の教科书の自然科学系の记述の中には、この半世纪に廃れたはずの学説が混在していたことです。教科书の内容だけでなく、高校で地理を教える社会科教员のためのサポートも必要でした。欧州で诞生した地理学は、社会科に特化したものではなく、もともとは博物学の流れを汲む人文系と自然系の総合分野であるべきなのです。筑波大学は自然科学系の地球学类に人文系と自然系の両方の教员がそろっています。地形学の研究から地理の教育にも力を入れることは自分に课せられた使命であると、池田さんは自覚しています。
文責:広報室 サイエンスコミュニケーター