TSUKUBA FRONTIER #029:ナノの世界を観る目を研ぎ澄ます 新しい顕微鏡で解き明かす極限の世界
数理物质系 重川 秀実(しげかわ ひでみ)教授
东京大学工学系研究科博士课程中退、同物理工学科助手、米国ベル研究所?フロリダ大学访问研究员、筑波大学物质工学系等を経て现职に。现在、科学研究费特别推进研究や未来社会创造事业において、量子光学と走査トンネル顕微镜の先端技术を组み合わせ、极微の世界の隠れた现象を探る新しい顕微镜法の开発を进めている。研究対象は半导体材料から生体分子まで含むナノサイエンス。令和元年春に紫綬褒章を受章。
より小さく、より速く
ただ静止しているように见える物质も、それを构成する原子や电子といった小さな领域では、様々な挙动をしており、その动きが、物质の机能を発现させています。非常に高速で瞬时に起こる変化を精密に捉えることが、新しい机能を持つ材料の开発につながります。例えば半导体も、原理は教科书に书かれた通りであっても、実际に原子や电子がどのように动いているのか、より详しくわかれば、これまでにない机能や性能を付与することができるのです。
物質を観察するツールの一つ、走査トンネル顕微鏡(Scanning Tunneling Microscope,STM)は、探針で物質の表面をなぞることにより、表面形状を原子1個のサイズよりも小さい精度で見ることができる顕微鏡です。1980年代前半に発明され、ナノテクノロジーの進展に大きく貢献してきました。一方、分子や原子の超高速の動きを観察するためには、レーザー分光法が用いられます。レーザー光をフェムト秒(1000兆分の1秒)という極めて短い瞬間で物質に照射し、その時に生じる物質の変化を検出するものです。この2つの技術を組み合わせると、空間分解能(サイズ)と時間分解能(速さ)を併せて、物質の挙動を詳細に知ることができます。
しかしながら、このアイデアが実现するまでには10年近い年月がかかりました。レーザー光照射によって厂罢惭の探针が热伸缩を起こし、探针と试料との距离が変动してしまうなど、様々な问题に直面しました。そういった课题を一つひとつクリアし、世界初の新しい分析装置「时间分解厂罢惭」が完成しました。
进化する顕微镜
従来の顕微镜は、物质をそのまま见るためのツールでした。つまり、原子や分子の并び方や结晶构造など、物质の姿をできるだけ详しく知ることが目的だったのです。しかし今时の顕微镜はそれだけではありません。光や温度、磁场などの刺激を与え、その応答を観察するためのものが种々开発されています。外的な刺激でわざと物质を変化させ、その様子から、物质が潜在的に持っている性质を见つけ出すのです。
私たちが见ている様々な物质の现象は、その内部で生じる微小で高速な変化の积み重ねと、それら全体がシステムとして作用した结果です。それは、金属や半导体のような无机材料でも、生物の细胞でも同じこと。时间分解厂罢惭は、极めて広范囲に活用できる基盘技术です。これまでは、物质が変化する前后を観察するのみでしたが、変化の过程のダイナミクスまで捉えることができるようになりました。
分析装置は、分析すべき対象があって初めて、その力を発挥します。ですから研究は必ず、それらを専门に研究する人々との共同で行われます。知りたいことは何か、そのためにどのような工夫が可能か、异分野间のディスカッションが、装置を进化させ、同时に、分析対象に関する新たな発见をもたらします。そしてそれらの知见が、また别の研究テーマへの展开を広げる、という好循环を生み出します。
ナノテクから生体まで
半导体については、いろいろな手法によって、すでに数苍尘(ナノメートル=10亿分の1メートル)という微细なレベルでの分析が可能となっています。それに伴って高性能化も进みましたが、さらなる机能の向上を目指すには、今までの手法では见えなかったものを见る必要があります。知り尽くされたように思えるものでも、时间分解厂罢惭での観察によって、まだ隠されている性质を引き出すことができるかもしれません。
また、最近特に注力しているのが细胞の観察です。细胞の构造はよく知られていますが、実は细胞ごとに异なる挙动を示します。例えば、病気の治疗などで薬剤を使用した时に、薬効が高い细胞とそうでない细胞があります。それぞれの细胞の中でどのような反応が起こっているのかがわかれば、より効果の高い薬剤や投与方法の开発に役立ちます。
细胞は生きた状态で観察することが重要です。しかしながら、その内部にはさらに様々な分子が存在するという复雑な构成ですから、光のあて方や探针の使い方、温度など、他の材料と同じような过激な条件で観察するわけにはいきません。细胞内部の分子一つひとつを适切な状态で観察できるように、装置の改良に取り组んでいます。生化学の分野でもこの手法が适用可能になれば、医学研究にとっての新しいアプローチとなるはずです。
新しい実験技术が科学を进歩させる
新しい分析方法や技术は、いつも、科学を进歩させる大きな要因です。精度が向上したり、新しい原理を导入することで、未知のものが见えるようになります。そのようにして、推测の域を出なかったことや、计算结果として示されていた理论が、现実のものとして証明されることも少なくありません。顕微镜などの分析装置は、それ自体では研究の主役にはなりにくいものですが、あらゆる分野の研究に、なくてはならないもの。知りたい事柄に応じて、既存の装置を改良したり、プログラムや回路を自作することは、どの分野でも行われています。
とは言え、时间分解厂罢惭のような基盘的かつ革新的な分析技术は、やはり「その道の専门家」でなければ生み出すことが困难です。この装置の発表时は、ネイチャー誌の取材を受けるなど、大きな反响を呼びましたが、これに追随する研究者は、世界的にも多くはありませんでした。それだけ、难度の高い技术だということです。ここ数年でようやく竞争が生まれてきており、さらに研究を重ね、どんな材料にでも适用できるような手法にするべく、もう一段の飞跃を目指しています。
すべての物质の谜に迫る
物质を原子や分子レベルで理解したい、その兴味は、この宇宙が一体どのように成り立っているのか、という根源的な好奇心から始まりました。ですから、分析対象に対しても特定のこだわりを持たず、あらゆる物质を扱います。顕微镜はミクロの空间を観察するものですが、究极的には、小さな世界を突き詰めることで、宇宙の仕组みや生命の谜も解明できるのではないかと考えています。
宇宙も生物も、元をたどれば原子や素粒子でできています。また、厂罢惭の原理であるトンネル効果が、宇宙の诞生にも一役买っているという理论もあり、なんとなく因縁も感じます。光や量子化学を駆使して物质に隠された性质を见つける研究は、いつか、宇宙にも生命にも通じていくに违いありません。
时间分解走査トンネル顕微镜(时间分解厂罢惭)
探针と物质との距离を1苍尘程度まで近づけ、その间に电圧をかけると、トンネル现象という量子力学的な効果により电流が流れる。この状态で物质の表面をなぞるように探针を动かすと、物质表面の凹凸を検知できる。これと、1000兆分の1秒(フェムト秒)程度のパルスを放つレーザー光を物质に当て、极めて短时间に生じる変化を検出する分光法を组み合わせることで、ナノレベルの空间分解能とフェムト秒レベルの时间分解能を両立する顕微镜を実现した。
(文責:広報室 サイエンスコミュニケーター)
(2020.04.06更新)