TSUKUBA FRONTIER #020:文脈を理解する国語辞書 ひとりひとりの能力とニーズに応える言語支援ツールへ
人文社会系 矢泽 真人(やざわ まこと)教授
1957年神奈川県生まれ。筑波大学人文学类卒业。同大学院文芸?言语研究科単位修得退学后,1985年学习院女子短期大学讲师,1989年筑波大学讲师,1995年同助教授,2008年より现职。博士(言语学)。中国西南大学客座教授。専门は,日本语学,辞书论,文法教育史?文法研究史,国语教育论。国语辞典编集や小学校?中学校の国语科教科书编集にも携わる。现在,科研费基盘(叠)「作文を支援する语汇?文法的事项に関する研究」,次世代型辞书开発プロジェクト,东アジア文化的基本概念プロジェクト等に従事する。
辞书の役割
かつて,国语辞书は谁もが持っているものでした。电子辞书が広がってきた顷には,目的の検索语周辺にある言叶も学べるなど,纸媒体の辞书の方が望ましいという议论もありました。しかし,そもそも辞书は教材や読み物ではなく,不足する言语情报を速やかに提供するツール。その机能が充実していることが重要です。媒体が何かは问题ではありません。
辞书を引く时,调べたい単语がわかっているとは限りません。説明したいことをどう表现すればよいかわからない,ど忘れしてしまった言叶を思い出したい,というような场合の方が多いのではないでしょうか。しかも,调べる作业のために,本来の言语活动は多少なりとも中断されてしまいます。そう考えると,従来の辞书はあまり使い胜手のよいものではなかったと言えそうです。
パソコンやインターネットが普及し,辞书を手元に置く必要はほとんどなくなりました。モバイル机器も一般的になり,谁もがいつでもどこでもいろいろなことを手軽に検索できます。そんな中,存在感の薄れた辞书も,より高度で柔软な言语支援ツールへ,着々と进化を遂げようとしています。
一人ひとりのニーズに対応
言语,特に母语は,意味が通じればよいわけではなく,场面や目的に适した言叶遣いや表现技法を使いこなすことが大切です。その际,子供と大人とでは,同じ事柄についてでも违う表现になるのが当然ですし,书く?话す?読む?闻くといった言语行动によっても,言叶の使い方が异なります。一口に「単语の意味を调べる」と言っても,その状况は様々です。个々のユーザーの能力や用途に柔软に対応できる辞书,というのはとても现代的でチャレンジングな研究テーマです。
例えば,流行语やインターネット上に特有の表现。亲しい人同士なら,むしろ言いたいことが的确に伝わるかもしれません。しかし目上の人に対して,あるいは文化の异なる地域で使うと,思わぬ失败になってしまうことがあります。そういう言叶は,意味だけでなく适切な用法も提示することが肝心です。また,文章を书く时には,最も适切な表现をじっくりと探したいでしょうし,会话の最中なら,素早く検索しコンパクトに结果が见られるデバイスが好都合です。新しい辞书开発には,ソフト,ハード両面からのアプローチが必须です。
人の思考パターンに近づける
头の中では様々な言叶やイメージを有机的に连想します。方向転换や飞跃も生じます。そうして考えをまとめていくものです。机械的に単语を并べ,网罗的に语釈を载せるという既存の辞书とは,言语を探索するメカニズムが根本的に异なります。その「ずれ」が使い胜手の悪さを生んでいると考えられます。検索手顺を人の思考パターンに近づければ,より「自然な」言语支援につながるはずです。
そこで取り组んでいるのが,文脉変换というアイデアです。入力された音や文字列をそのまま扱うのではなく,文脉(话题)を认识して最もふさわしい単语や意味を出力するという考え方で,パソコンの日本语入力システム开発の分野では,20年ほど前から提案されています。汉字変换においてはかなり精度が向上しており,この技术を辞书にも応用しようとしています。
日本语は同音异义语が多い上,いくつもの语釈がつけられる単语も珍しくありません。ですから辞书で调べても,求める情报にすぐにたどり着けないこともしばしばです。复数の候补の中から,文章や会话の内容,流れに合った単语や语釈を选び,相応な详しさで示してくれる,そんな辞书が目标です。
言语能力を定量的に测る
国语辞书で「分析」という単语を引くと,「复雑な现象?対象を単纯な要素にいったん分解し,全体の构成の究明に役立てること」(新明解国语辞典第7版)とあります。特段,难しい説明ではないように思われますが,この语釈のうち小学校の教科书に出てくるのは「全体?构成?役立てる」の3语だけ。小学生が大人用の辞书を引くと,ますますわからなくなってしまいます。
私たちは,主に小学校から高校までの教育を通して,徐々に语汇を増やし,多様な文型を习得します。同じ日本语でも,発达段阶によって使える単语や表现が违うわけです。ですから言语支援においては,文法的な正しさだけでなく,世代ごとに使える単语や文型に制约があることも考虑しなくてはなりません。
小学校?中学校?高校の各段阶について,教科书に使われる単语の种类や出现频度,作文に书かれる文型などを统计的に调査すると,そういった制约が明らかになります。「复雑?机能?要素」などの抽象名词は,小学校ではほとんど使われず,高校で急激に语数が増えます。それにつれて,使える文型も広がります。「どうして私が??したいかというと,△△したからです」と表现していたものが,「私が??したいと思ったきっかけは,△△したことです」「△△したことが,??しようと思うきっかけとなった」など,より论理的で豊かな表现ができるようになるのです。
辞书作りは学际プロジェクト
论理的な思考をするには,正しく言语を使い,适切な表现でその思考を记述できることが大前提です。また,グローバル化が进む时代にあって,日本语と他言语の间にある表现の违いや言い换えも意识しなくてはなりません。これからの国语辞书には,母语としての日本语を上手に使うための言语支援という视点が不可欠です。
多様なニーズに応える国语辞书となると,どうしても电子型になります。その开発には,言叶の意味や文法,世代间の语汇や表现能力に関する言语研究に加えて,文脉変换による検索システムの构筑や,使いやすいインターフェイスのデザイン,すなわち教育学,心理学,工学など幅広い分野との融合,さらに他の辞书との连动やデバイス设计では,出版や情报产业との协働も含まれます。これは,人文社会研究の在り方にも大きな変化をもたらすはずです。
モノとして手に取ることは减っても,国语辞书が改订されるたびに,新たに収録された単语や用法がニュースになりますし,编集者のこだわりに触れるのも兴味深いことです。しかしもはや,私たちが辞书に求める実用机能は,そういった言叶そのものへの関心をはるかに超えています。次世代の国语辞书はどんな姿になるでしょうか。その実现に,期待が高まります。
次世代型辞书开発プロジェクト
今后の多言语多文化社会において,必要な言语情报を提供するための,个别対応性,汎时性,多言语性を备えた次世代型言语情报提供サービスの开発を目的とする。利用者の能力差,用途差,使用环境差などに対応するための使用実态调査とともに,辞书情报の构造化や提供时の情报自动适応化などに関わる研究を进め,次世代型辞书のグラウンドデザインの策定と标準化を目指す。
(文責:広報室 サイエンスコミュニケーター)
(2018.2.5更新)
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