TSUKUBA FRONTIER #039:心理学で逸脱行動の変容を促す

人间系
原田 隆之(はらだ たかゆき)教授
1964年徳岛県生まれ。一桥大学社会学部、同大学院社会学研究科博士前期课程修了。カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校大学院心理学研究科修士课程修了。东京大学大学院医学系研究科で博士(保健学)取得。法务省矫正局法务専门官、国连薬物?犯罪事务所ウィーン本部アソシエートエキスパート、目白大学人间学部教授等を経て现职。専门は、临床心理学、犯罪心理学、精神保健学。
刑罚や説得を超えた心の働きへのアプローチ
やめたくてもやめられない...谁にでもそんなことはあるでしょう。
犯罪や依存症は、それがエスカレートした形ということができます。
最初は一时の気の迷いや好奇心でも、いったんその行动が快感として认识されると、
ダメだと分かっていても繰り返してしまうのです。それは一种の病で治疗も可能ですが、
间违った情报や偏见が広がってしまっているのも事実。繰り返される逸脱行动への
科学的対処に向け、正しい知识を発信しつつ、心理疗法の最前线に立っています。
行动は変えられる

犯罪など、社会规范から逸脱した行动を変える必要があるとき、どのような方法が有効でしょうか。みんなで説得をしたり、理路整然と説明したり、あるいは、何らかのペナルティを科すという方法も考えられます。けれども、そう简単には変われないのが人间です。头では理解していても、ストレスや不安の方が大きかったり、欲望や快楽に负けてしまったり。そんな时に力を発挥するのが心理学です。
このような逸脱行动をやめさせるためには、刑罚を科したり、本人が反省するだけでは十分ではありません。とりわけ、薬物依存や性犯罪は、刑期を终えて社会復帰しても、また繰り返してしまいやすいものです。しかし一方で、そういった人たちの多くは、立ち直りたいという気持ちを持っています。
これらの逸脱行动の原因となるのは、认知や行动のゆがみですから、それを修正する、つまり治疗をすることは可能です。実际、心理疗法による集中的な治疗プログラムによって、再犯率を30ポイント近く下げることができるというデータが示されています。もちろん、そういった治疗を提供する场所や机会のインフラを整えること、そして、治疗の后も孤立しないための长期的なサポート体制につなげていくことも重要なのは、言うまでもありません。
疫学的手法で心理を捉える
こうした逸脱行动の原因や関连要因を探るには、データが重要になります。海外では、ある地域で生まれた子どもたちを、何十年にもわたって追跡し、医学やメンタルヘルスの観点からさまざまなファクターを分析するような疫学调査の事例があります。そこまでの大规模なプロジェクトとはいかないまでも、このような研究手法を取り入れようとするのが、心理学の分野でもトレンドになっています。
现在取り组んでいるのは、性犯罪者を対象にした调査です。性犯罪のリスクファクターにはさまざまなものがありますが、着目しているのは「遅延価値割引」という认知的倾向です。目の前にある小さな快楽と、后で手に入る、より大きな快楽のどちらを选ぶか、というようなことを调べていくと、犯罪を犯す人には、そうでない人に比べて、目の前の快楽に飞びつきやすい、つまり、その后に起こるであろう(遅れてやってくる)家庭や人生への影响を割り引いて考えてしまう倾向があることが见えてきました。病院や自助グループにも协力してもらい、より多くのデータを集めてさらに详しい分析を进めていけば、そのような衝动性や行动をコントロールできるようにするための介入方法を提案することができるかもしれません。思考パターンや认知のゆがみなど、性犯罪につながりうる他の要因の分析も加えれば、より効果的な治疗プログラムが见つかるはずです。
心の働きと脳の働き
逸脱行动をめぐる心理学の理论は、古典的なものから新しいものまで、一般向けにも比较的よく绍介されていますが、それだけで心理学を语ることはできません。最近では、生物学的なアプローチにも注目が集まるようになっています。犯罪と関连づけて遗伝子や脳の仕组みを调べることは、优生学的な考え方を助长しかねないことから、长い间、タブーとされてきました。しかし突き詰めると、心の働きは脳の働き。正しい原因が分からなければ、适切な対応もできません。そのため、脳画像や遗伝子解析を用いた研究が进展してきています。
逸脱行动をやめられなくなるのは、それで快感が得られるからです。その记忆が蓄积されて、快楽を感じる脳の回路が过敏になります。痴汉や窃盗などの犯罪や、酒や薬物に対する依存症は、いずれも同じ仕组みが関わっています。ただ、そのような脳の働きを镇める薬はありません。仮に薬があったとしても、快楽で兴奋する神経系は共通なので、日常にある他のさまざまな快感まで失われることになります。それでは生きる楽しさそのものがなくなってしまいます。ですから今のところ、こうした逸脱行动を治すには、心理疗法に期待するしかないのです。
刑务所で知る人间の多様性
一见、気の重い分野のように思われる犯罪心理学ですが、学生时代、実际に刑务所や拘置所でさまざまな犯罪者に面接してみると、教科书でしか読んだことのないような珍しい障害を持っている人や、常识では考えられないような行动パターンの人がたくさんいて、その多様性に、人间に対する価値観が大きく开かれました。それは、人间性への関心を高めるきっかけになりました。
人の心には、爱や梦といった明るい部分だけでなく、妬みや憎しみといった闇の部分もあります。犯罪は、普段は隠されている闇の部分が可视化されたものの一つとして捉えることができます。犯罪者だから、という先入観を持たずに、こうした部分に目を向けることが、より深い人间理解につながるのです。
正しい心理学を広め社会に役立てる
社会的インパクトの大きな重大犯罪が起きた时、メディアでは、専门家と称する人たちが、犯人の育った不遇な环境や特异な人柄と结びつけて、その动机や行动を説明しようとします。けれどもそのような犯罪は频繁に起こるものではなく、エビデンスになるほどのデータは集まっていません。真の専门家なら、安易に答えを导くことはできないはずなのです。
确かに人々は、そのような分かりやすい説明を探しがちです。しかし间违った情报や偏见が、心理学の知识として広がってしまうのは、社会にとっても、学问としても望ましくありません。学会も、そのような状况を踏まえて、积极的な情报発信を推进するようになってきました。そういった背景もあり、学术论文や専门书だけではなく、一般向けの新书やウェブメディアの记事も数多く执笔し、メディアや厂狈厂でも精力的に発言するように努めています。
犯罪心理学は、その知见を社会に还元することが重要。刑务所に治疗プログラムを导入したり、学校教员による性犯罪の问题への取り组み、さらにそれに向けた司法や政治の関係者との协働など、社会とのさまざまなコミュニケーションも大事にしています。そうして、临床での治疗にあたること、一度は过ちを犯した人々が回復していく姿を见ることが何よりの喜びです。
筑波大学人间系 原田研究室

犯罪行动をはじめとする人间の逸脱行动の分析と治疗、行动変容について研究している。科学的な心理アセスメントや心理疗法の开発を目指し、さまざまな临床研究を実施している。现在は、性犯罪者のリスクファクターの研究および治疗プログラムの开発、フィリピンにおける覚醒剤依存症治疗プログラムの开発(闯滨颁础プロジェクト)などに取り组んでいる。科学的な方法を重视し、真に社会の安全、个人の心身の健康や适応に役立つ临床心理学の実践を目指している。
(鲍搁尝: )
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