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TSUKUBA FRONTIER #025:脳と心とデザインと 人それぞれの「心地よさ」を解き明かす

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芸术系 小山 慎一(こやま しんいち)教授

早稲田大学大学院文学研究科修士課程心理学専攻を修了後、ボストン大学(Boston University)心理学部博士課程修了。Ph.D.(心理学)。ハーバード大学医学部付属マサチューセッツ総合病院NMRセンター研究員、日本学術振興会特別研究員(PD)、昭和大学医学部神経内科普通研究生、千葉大学大学院工学研究科助教?准教授等を経て、2017年4月より現職。心理物理学と呼ばれる感覚を定量的に測定する手法を、デザインやリハビリに応用する研究を進めている。

「心地よさ」の正体を探る

人の颜に水玉模様を配した画像を见ると、なんとなく违和感を覚えます。人によっては「気持ち悪い」と感じることもあります。このような画像の加工が「ハスコラ」。ハスの切り口のような水玉模様を使ったコラージュのことです。
ハスコラに限らず、ブツブツ模様や縞模様など特定のパターンを苦手に感じたり、逆に强く惹かれてしまう、つまりある种の「敏感さ」をもつ人は结构いるものです。そういった模様がモチーフの芸术作品もたくさんあり、気持ち悪さを感じながらも美しいと思って鑑赏することもしばしばです。一方で、横断歩道を渡れないほどしま模様を不快に感じたり、阳の光やネオンサインが眩しすぎて外出できない、という人もいます。そうなると、日々の暮らし自体が困难になりますから、これは単に、人间の感覚は不思议なもの、では済ませられない问题です。
心地よさや美しさに対する感性は、経験や知识によって培われる侧面があるため、个人差が大きいものですが、违和感や苦手意识は、谁もが共通して感じる感覚であるにもかかわらず、言叶で説明しにくいものです。目で见たもの、视覚情报に対して心地よさ?気持ち悪さを感じるメカニズムを、脳科学や心理学、さらには空间デザインなど、様々な方向から解明しようとする研究プロジェクトが进んでいます。

「気持ち悪さ」の定量化

小山教授の写真

ハスコラ画像に対する気持ち悪さの原因は何でしょうか。それが水玉模様にあるとすれば、水玉の数や大きさによって、気持ち悪さの程度が変化するはずです。気持ち悪さは、不快に感じた时间の长さや、心拍数などで定量化したり、基準となる気持ち悪さを设定し、それと比べた感じ方の强さで测ることもできます。このような、気持ちの変化を数値的に理解しようとするのが、心理物理学のアプローチです。
そうして実験してみると、同じ面积でも水玉がたくさんあるほど、気持ち悪さが増すことがわかりました。また、颜に水玉模様をはりつけた画像では、上下を逆さにすると、それほど気持ち悪さを感じなくなることも発见しました。
その理由として、二つの仮説が考えられます。一つは、水玉の大きさや密度に対して、脳が何らかの规则性に基づいて反応している、つまり脳の机能として、そのような感じ方がプログラムされているということ。もう一つは、生物としての防卫反応のようなものです。人の颜にあるブツブツ模様は、感染症などの病気を想起させるため、本能的?経験的に避けようとする行动につながりますが、上下が逆になると、人の颜として认知しにくくなり不快感も减る、という理屈です。ここでは、水玉が「生存上の危険」という意味を持つことになります。

脳波から「敏感さ」を読み取る

脳のある部分が损伤すると、人の颜や文字などがわからなくなることがあります。特定の形や光に対して快?不快を感じるというのも、脳内の情报処理になんらかの过剰な反応があり、それが「敏感さ」を左右すると捉えることができます。
この敏感さには、生まれつき持っている部分と、训练によって获得する部分があります。例えば先述の、しま模様や光が苦手な症状は、片头痛を持っている女性に多く、偏头痛も遗伝している倾向があります。この场合は、生まれつきの敏感さと考えられます。一方で、芸术などの创作活动をする人は、次第に细部にまでこだわるようになり、ちょっとした违いがとても気になったりします。これは训练により得た敏感さといえるでしょう。
ところが、こういった敏感さに苦しんでいる人の脳波を调べてみても、明らかな异変は见られません。本人はとても辛そうにしているので、剧的な违いがありそうなものですが、脳波を目で见ただけでは特に异常は见つかりません。视覚情报を取り込み、それを脳が処理し、感覚として现れるまでのプロセスは、极めて微弱なものなのかもしれませんし、意外な部位で反応が起こっていることもあり得ます。まだまだ研究の余地がありそうです。

敏感と钝感の间

研究を始めたきっかけは、视覚から得た情报を私たちはどのように理解しているか、という根本的な疑问でした。そこには、いろいろなタイプの敏感さを诉える患者さんに出会った临床体験もありました。心理学を起点に、気持ち悪さや美しさを感じる仕组みや、文字情报がよりよく伝わるパッケージデザインなどへと、研究テーマは広がっています。
ハスコラを気持ち悪いと感じる人は比较的多いとはいえ、何とも思わない人ももちろんいます。光の眩しさを着しく辛く感じる人でも、他の刺激にはほとんど反応しないことも珍しくありません。その时の精神状态や周囲の环境によっても、感じ方は変わります。また、気持ち悪さと気持ち良さは必ずしも相対するものではなく、いわゆる「キモかわいい」のような、中间的な感覚も确かに存在することがわかっています。敏感さと钝感さは共存しており、别々に捉えるのは难しい。この分野の研究にはそのような复雑さ?难しさがあり、それが面白いとも言えます。

ユニバーサルデザインの先へ

敏感さの违いは、他人には理解し难いものですし、障害としても认められにくいのが现状です。大多数の人にとってはなんでもない情报や环境が、一部の人を苦しめているというとき、みんなが同じ空间で过ごすための工夫は可能なのでしょうか。
例えば、光に敏感な人のために、空间全体の明るさを落とすと、今度は视力の弱い人が困ります。かといって、空间を分けてしまうのも适切ではないでしょう。苦手な刺激を取り除くよりも、好きな刺激を积极的に提供する方が、当事者にとってはハッピーかもしれません。心地よさの基準は人それぞれ。障害のある人と共に暮らす社会に向けて、ユニバーサルデザインという考え方が広がっていますが、そこに敏感さも共生できるようにするには、これまでの概念を越えた空间デザインや、个别の対応策の在り方を考えることも重要です。
敏感さや気持ち悪さを生じるメカニズムを科学的に解明し、薬やリハビリなどによる治疗方法を见つけること、现に困っている人への支援を検讨すること、どちらも研究成果を社会に还元する道。様々な分野が协働し、両者を并行して进めていかなくてはなりません。异分野融合研究の结晶が、谁もが心地よく过ごせる环境を导いてくれるはずです。

小山教授の写真

日本学术振兴会 先导的人文学?社会科学研究推进事业(领域开拓プログラム

脳机能亢进の神経心理学によって推进する「共生」人文社会科学の开拓

このプロジェクトでは3つのフェーズを循环することによって研究を推进している。フェーズ1では若年者と认知症/脳损伤患者を対象に、各种敏感さを引き起こす要因の特定と、脳が敏感に反応するメカニズムの解明を行なう。フェーズ2では日常生活において敏感さが引き起こす问题について、フェーズ1の成果に基づいて分析する。フェーズ3ではフェーズ2の成果に基づいて、敏感な人もそうでない人も住みやすい住环境の提案と検証を行なう

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(文責:広報室 サイエンスコミュニケーター)

(2019.4.16更新)