TSUKUBA FUTURE #067:生きている動物を透視する蛍光バイオイメージング

医学医療系 三輪 佳宏 講師
2008年のノーベル化学賞は、「緑色蛍光タンパク質 GFPの発見と開発」を称えて下村脩さん(筑波大学特別招聘教授)、マーティン?チャルフィーさん、ロジャー?チェンさんに贈られました。チャルフィーさんは、下村さんが1961年にオワンクラゲから発見した、紫外線が当たると緑色に光る蛍光タンパク質の遺伝子を利用し、生きものに組み込んで光らせる手法を確立しました。そのチャルフィーさんが1994年にサイエンス誌に発表した論文を見た三輪さんは雷に打たれたと言います。大学院を修了して大学に職を得たばかりで、今後の研究の方向性を模索していたとき、そこに光明を見い出したのです。
细胞の生化学的な机能に関する研究の常道は、シャーレの中の细胞块をすりつぶして调べるやり方です。しかしそれでは、例えば细胞分裂(细胞周期)のさまざまな段阶にある细胞のように、本来バラつきを持った细胞集団がごちゃまぜになるため、全体の平均値しか调べられません。そのことに歯がゆさを感じていた叁轮さんは、蛍光タンパク质を使えば、细胞内で起こっている遗伝子スイッチのオン?オフを细胞1个ごとにチェックできることに大きな可能性を见たのです。しかもそれだと、细胞を生かしたまま観察できます。叁轮さんは、この蛍光イメージングの研究に着手しました。

研究について常に热く楽しげに语る。后につづく科学を目指す世代を育てるために、
小中高への出前授业の依頼にも积极的に応じている。
その后、叁轮さんの野望はさらに膨らみました。细胞レベルだけでなく、个体レベルの生きたマウスを蛍光イメージングで研究したいとの思いがつのったのです。しかし可视光(波长が380?650苍尘の光--1苍尘は10亿分の1尘尘)は、体外までは届きません。その理由は、赤血球の色素であるヘモグロビンやその他の物质が可视光を吸収してしまうためです。なので、体内の蛍光物质が光っても、外からは见えません。緑色に発光する蛍光タンパク质だとぜんぜん见えません。ところが、波长が650?900苍尘の近赤外光は吸収されにくいため、可视光の10倍以上も深くまで浸透します。逆に波长がもっと长い光は、细胞内の水分に吸収されてしまいます。マウスは体が小さいため、近赤外光の浸透力があれば十分です。
しかし、マウスを近赤外光で観察したところ、消化管が灿然と光り辉いていました。原因は饵です。これでは、たとえ病変部を光らせても、微弱な蛍光なので判别できません。饲料メーカーとの、近赤外光で光らない饵の共同开発が必要でした。当时市贩されていた饵すべてをチェックしたところ、1种类だけ、光らない饵があったそうです。ところがその饵で饲育したマウスは、みるみるうちに衰弱したとか。そこで饵の成分の検讨から始め、3年の歳月を経て、栄养的に申し分のない、光らない饵の开発に成功しました。测定装置开発の共同研究も难航しました。マウス専用の装置が完成した直后、メーカーが実験动物用机器の开発研究からの撤退を决定。研究室から装置が召し上げられてしまうという悲剧に袭われたのです。
一方、近赤外光で光る蛍光タンパク质や蛍光色素、さらには特定の状况だけで光るマウスの系统を準备する必要もありました。たとえば动脉硬化になりやすい遗伝子改変マウスはありました。しかしこれまでの研究では、动脉硬化になったかどうかは解剖しなければわかりません。血管が细くて齿线では见えないからです。病変した血管の蛍光イメージングが使えれば、それが可能になります。しかも病気の进行を同一个体で生きたまま追跡できます。现在、3种类の病気について、病気になったときだけ病変部が光るマウスの作成に成功しており、治疗法と连动した研究が进んでいるそうです。その成果を発表できるのも间近とか。
応用研究に励む一方で、叁轮さんにはさらなる野望があります。たとえば肝臓は、肝细胞のほか血管系の细胞など何种类もの细胞で构成されています。発生の过程で、肝臓は、そうした异种细胞の相互作用によって形成されていきます。细胞をマークする色素を种类ごとに変えれば、异种细胞の相互作用を追跡できるのではないか。叁轮さんはそれを、细胞社会、生命システムの解析と呼びます。それを実现するためのツール开発、研究者仲间の拡大に、叁轮さんはファイトを燃やしています。

芸术系の田中佐代子准教授と共に、サイエンスイラストレーションの授业も実施している。
近赤外蛍光イメージング法を説明する作品。
左:芸術専門学群1年 柴田 美咲さん(2009年度) 右:芸術専門学群3年 黒木 沙彩さん(2012年度)
文責:広報室 サイエンスコミュニケーター