TSUKUBA FUTURE #019:マウスがひらく新しい世界と共同研究の輪

医学医療系 島野 仁 教授
筑波大学附属病院内分泌代谢?糖尿病内科を率いる岛野さんの転机は、20年ほど前のアメリカ留学にありました。血中の脂质代谢を研究する目的で、コレステロール代谢の研究のメッカ、テキサス大学ノーベル赏学者闯?尝?ゴールドステインさんと惭?厂?ブラウンさんの研究室に留学したときのことです。そこで与えられた研究テーマは、コレステロール低下薬であるスタチンがどのような仕组みで働いているかを、试験管の中や细胞ではなく、生体内で确认するというものでした。
その研究の直前に、コレステロール代谢の调节を支配する厂搁贰叠笔というタンパク质がみつかっていました。しかし详しく调べると、厂搁贰叠笔には厂搁贰叠笔-1と厂搁贰叠笔-2という2つの种类があり、厂搁贰叠笔-2はコレステロールの代谢に関係し、厂搁贰叠笔-1は别の脂质代谢(脂肪に多く含まれる、脂肪酸やトリグリセリド)に関係していることが、マウスを用いた研究でわかりました。つまり、厂搁贰叠笔-1が肝臓で过剰にはたらくと脂肪肝になるのです。
ところが件のノーベル赏学者たちは、自分たちにはコレステロール代谢に割く时间しかないと兴味を示しません。彼らは、我々に与えられた时间は限られているから、研究対象は広げずにぶれないのがポリシーだというのです。ならばと岛野さん自身は、脂肪酸代谢の研究に的を绞ることにしました。

贰濒辞惫濒6に着目した生活习惯病治疗のコンセプト。
血中や臓器の脂肪代谢を研究するうちに、おもしろいことがわかってきました。厂搁贰叠笔-1というタンパク质は、たとえるなら指挥者です。正常な状态では、食物として摂取した糖や炭水化物を脂肪に変えて体に贮蔵する指令を出します。ところがいったん絶食して飢饿状态を経験させた上で食事をとらせると、过食になり、脂肪の合成にゴーサインが入りっぱなしになります。食べれば食べるほど、絶食前よりも摂取した糖や炭水化物や脂质が脂肪として体に溜められていくのです。そういうことが积み重なると、生活习惯病に発展します。
ただし、贮蔵される脂肪のすべてが悪さをするわけではないこともわかってきました。その証拠に、肥満でも健康な人はいます。溜まる脂肪の质が问题なのです。
それを追及する过程で、岛野さんの研究チームは、脂肪を构成する脂肪酸という物质の"质"を调节する酵素贰濒辞惫濒6を见つけました。脂肪酸は炭素と水素と酸素という3种类の原子で构成されています。锁状につながった炭素の数により、脂肪酸の种类が异なってきます。贰濒辞惫濒6は、炭素の锁が18个以上の脂肪酸の合成にかかわっていました。脂肪酸の种类の目安としては锁の"太さ"が有名で多価不饱和脂肪酸(鱼の油)と饱和脂肪酸(肉の脂)が健康や病気に関连することはよく知られていましたが、锁の长さという新しい脂质の质の视点がここでひろがりました。

研究について语り出すと止まらない。
脂肪(脂质)は、代谢、肥満、动脉硬化などの慢性的な症状のほか、局所的な炎症にもかかわっています。そこで岛野さんは、脂质合成経路の生理的な意义や、生活习惯病の病态への関与へと研究対象を広げ、动物モデルでの実証を行うと同时にそのメカニズムを细胞レベルで解明するという方针を立てました。特に脂肪酸の质を调整する酵素贰濒辞惫濒6の遗伝子がはたらかないようにしたノックアウトマウスを作成し、それを用いた研究を展开しています。贰濒辞惫濒6ノックアウトマウスは、过食による肥満、脂肪肝にはなりますが、糖尿病にはなりません。生活习惯病を発症しにくいのです。逆に言うと、この酵素のはたらきを阻害すれば、肥満が持続した状态においてもインスリン抵抗性、糖尿病、心血管リスクを改善する新たな治疗法が见つかる可能性があるということです。

贰濒辞惫濒6の働きは、脳?肺?肝臓などさまざまな臓器の机能や疾患と関连している。
また、この酵素が欠损していると体の様々な部位でそれぞれに兴味深い异常が现れます。たとえば脳ではたらかないようにすると、脳のサイズが大きくなり、嗜好や行动も変わります。探索行动が减って、不安症気味になるのです。つまり、脂の质が脳の构造とはたらきを変えてしまうのです。あるいは肺でのはたらきを抑えることで、肺疾患に関与していることもわかりました。体の中の细胞膜は脂质で构成されています。したがって脂质の代谢は体のあらゆる部位にそして栄养や代谢だけでなく、炎症、脳机能、増殖といった様々な生命现象に関係してくるのです。特定の臓器だけでこの酵素がはたらかないマウスをつくって一つ一つ详细に调べています。むろん、そのすべてを岛野研究室で调べ上げることはできません。岛野さんは、学内外を问わず、いろいろな分野の研究者と连携することで研究の轮を広げています。そしてもちろん、糖尿病内科の诊疗を通じて、糖尿病予防の启発活动や研究に兴味ある若手医师の育成にも力を入れています。

岛野研究室には医学类だけでなく様々なバックグランドの学生、研究员が集っている。
この多様さが研究の幅を広げる。
岛野さんの研究は、的を绞ったつもりがどんどん広がりを见せてきました。それは、必ずしも専门に固执することなく、知的好奇心の赴くままに现象を深く掘り下げることで新しい真実を见いだす悦びを目指すと同时に、多面的な展开も図ることで、予想外の発见に与する机会を期待してきた结果です。一人でできることは限られています。でもたくさんの人とつながれば可能性は広がるというのが、岛野さんのポリシーです。
文責:広報室 サイエンスコミュニケーター
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