TSUKUBA FUTURE #110:木材の加工技術で楽器の歴史を変える
生命環境系 小幡谷 英一 准教授
木材には様々な种类があってそれぞれに异なる性质を持つ上、同じ种类の木でもその质には幅があります。优れた楽器职人は、叩いて音を闻くなどして、良い木材を见极めますが、実际の木材の性质は、繊维の组织や细胞壁内のナノメートルオーダーの构造などの科学的な要因によって决まります。楽器の材料としての木材に着目し、楽器にとって适した性质を调べて评価したり、その性质を変化させるための技术开発が、小幡谷さんの研究です。
楽器の価値は、木材そのものよりも、むしろ、职人の知名度や见た目の美しさなどが大きく影响します。また、古いものほど高値がつくものです。そのため、新しい木材に染料でわざと色をつける、アンティークイミテーションが行われることもあります。でも、表面だけの加工では、どうしても不自然さは否めません。そこで小幡谷さんは、热処理による木材加工の研究を进めています。焼くことで色が浓くなり、さらに様々な化学変化が促进されて、古い木材のような状态になることは、以前から知られていましたが、最近になって、温度と湿度を制御することで、古い木材の、色だけでなく、音响特性までも忠実に再现できるようになりました。ある木材が何百年か経った时の状态を予测することも可能なので、文化财の修復などにも有用です。

高価な楽器の音が美しく闻こえるのは心理的な効果も大きい。
そのような音色ではなく、材料学的な観点から、普遍的な良い音、良い材料を捉える研究を进める
一方で、楽器用の木材は现在、大きな危机に直面しています。木管楽器の菅体に使われる、アフリカ产のグラナディアという木材は、重たくて金属のような重厚感があり、中心部は真っ黒い色をしています。金属部品を打ち込んでも割れない强度があることから、主にクラリネットに使われてきましたが、この木は絶灭危惧种として、数年前にワシントン条约で国际取引が规制されるようになりました。リコーダーや二胡、マリンバなどに用いられるローズウッドも同様の状况で、いずれ手に入らなくなることが悬念されています。このままでは、近い将来、多くの楽器が作れなくなってしまうのです。これらの楽器は、木材以外の材料では同じ音を出すことができないため、似た性质を持つ别の木材で代替する研究が始まっています。
それには、品种改良ではなく、身近な森林资源を活用します。グラナディアの代替には、軽い木材に対して、重くて硬くする加工が施されます。その方法は、木材をぎゅっと溃すという、至ってシンプルなものです。木は细胞が集まってできていますから、その空间を溃して密にすると、水に沉むほどの重い材料になります。これ自体は新しい技术ではありませんが、问题はやはり湿気。ただ圧缩しただけでは、水に浸すと容易に元に戻ってしまいます。湿気によって伸び缩みするという木材の特徴は、楽器にとっては望ましくない性质です。特に管楽器では、演奏者の呼気によって楽器の形状が変化し、音程も変わってしまいます。小幡谷さんは、このような过酷な乾湿の繰り返しにも耐える、特殊な加工法の开発に取り组んでいます。日本の木と技术が、楽器の歴史に残る変革をもたらすかもしれません。

木材の振动特性を测定する
小幡谷さんが木材に兴味を持ったのは大学院生の顷でした。学校の先生になろうと、教育学部で学んでいましたが、修士课程で、クラリネットのリードを水に湿らせた时の音色の変化を调べたのがとても面白く、博士课程では农学部に移って本格的に木材の研究を始めました。もともとクラリネットを吹いていたこともあり、以来、楽器の材料としての木材をメインに研究を続けています。建材としての木材に関する研究はたくさんありますが、楽器に特化した研究者は世界的にも极めて少なく、小幡谷さんの研究は贵重です。
日本の森林资源は豊富です。失われる心配よりも、适切に管理しながら、积极的に利用することが求められます。手间を惜しまずに、丁寧に育て、加工すれば、木材の価値は何百倍にもなり得るのです。木材が环境に优しいというのも、长く使ってこそ。腐ったりカビたりすると误解されがちですが、湿気にさえ気をつければ、実はとても耐久性が高く安定した材料です。世界最古の木造建筑として知られる法隆寺は、1400年以上もその姿を保っていますし、古代エジプトのツタンカーメン王の棺も木製で、今も博物馆で见ることができます。セラミックスやプラスチックなどの机能的な材料に比べると、素朴なイメージの木材ですが、そのポテンシャルは计り知れません。
文責:広報室 サイエンスコミュニケーター