TSUKUBA FUTURE #097:マウスの行動に魅せられて

人間系 高橋 阿貴 助教
マウスは臆病な动物ですが、二匹のオスを同じケージに入れるとけんかを始めます。これは互いの优劣を确认するためのけんかで、弱いほうが降参のポーズをとることで収まります。一般に、同种の个体に向けられた攻撃行动には抑制がはたらく仕组みがあるのです。ところが、恐怖にかられた攻撃などには抑制が効かないことがあります。これは、攻撃行动の目的により、抑制の仕组み、つまり神経生理的な仕组みも异なっていることに起因しているのです。

国立遗伝学研究所でさまざまな系统の
マウスに出合ったことが研究の原点と语る
高桥さんは、当初、マウスの不安行动を调べていました。见知らぬ环境に置かれたマウスは、いかにも不安そうな行动をします。ところが、オスが不安そうな様子を见せているケージに别のオスを入れたとたん、一転して攻撃行动に出たのを见たことで、攻撃行动に兴味をもつようになったそうです。攻撃行动にはセロトニンという神経伝达物质の関与が大きいことがわかっています。マウスだけでなく人でも、セロトニンが低下すると攻撃行动が过剰になります。しかし攻撃行动のレベルが、脳の中でどのように制御されているかについては、わかっていませんでした。
高桥さんたちはそのグレーゾーンに取り组み、中脳のセロトニンを分泌する细胞群(セロトニン神経)が存在する部位で、兴奋性神経伝达物质であるグルタミン酸の入力が増えたときに、マウスの攻撃行动が过剰になることを明らかにしました。その际、攻撃行动が过剰になるのに伴い、セロトニンの放出量も増えていました。その一方で、适度なレベルの攻撃行动をしているときには、セロトニンの放出は変化しないこともわかりました。これは、これまでのセロトニンと攻撃行动の関係に関する知见とはまったく逆の结果でした。过剰な攻撃行动时に、セロトニン神経系の活性が上がっていたのです。このことから、平常时と、攻撃行动中のセロトニンの放出量とは、攻撃行动に対して异なる役割をもつことが明らかになりました。
一方、攻撃行动を受ける个体には过剰な精神的ストレスがかかります。体が大きい优位オスの攻撃に毎日のようにさらされ、ケージも隣に置かれているオスのマウスは、败北ストレスを受けることで、体重と社会行动が减少し、うつ様の症状を示すようになります。この症状には、人で処方されている抗うつ薬が効きます。ただし、マウスの败北ストレスに性差があるのかどうかの研究はありませんでした。なぜなら、ふつう、マウスのオスがメスを攻撃することはないからです。また、メスどうしのけんかもありません。メスが攻撃的な行动を见せるのは、オスが自分の子どもを袭おうとした场合だけです。

アメリカの研究室での一コマ
海外で研究する机会が得られる国际テニュアトラック助教に採用された高桥さんは、アメリカのロックフェラー大学とマウントサイナイ医科大学に留学し、メスのマウスをモデルとしたストレス研究にも着手しました。オスのマウスの脳の特殊な部位を薬剤によって活性化させることで、メスに対する攻撃行动を起こさせたのです。オスからの攻撃行动を10日间受けたメスの反応には个体差が确认されました。ほぼ半数の个体は、ストレスを経験した后に体重が大幅に减少し、别のオスまで避けるようになりました。一方、残りの半数では、体重や社会行动に変化はありませんでした。ただし、不安様行动の増加だけは、すべてのメスで认められました。
マウスの行动研究では、攻撃行动はマイナーな分野だそうです。メジャーな分野は、たとえば老化やアルツハイマーなど、社会的な関心が大きいテーマだそうです。しかし、ドメスティックバイオレンスやパワハラなど、攻撃的な行动で不安障害に苦しむ人は少なくありません。しかも一般に、女性は、男性よりもうつ病や不安障害の発症率が高いことが知られています。また、精神疾患の生物学的メカニズムにも性差があるとの报告もあります。うつ病だったり、ストレスを受けた人は、免疫反応にも影响が出ているという知见も集まりつつあります。マウスをモデルにした研究の进展が期待されるゆえんです。もちろん、マウスの行动をそのまま安易に人に当てはめることはできません。动物実験では伦理的な配虑も必须です。それでも、俗に「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンが攻撃行动を高めるなど、攻撃行动研究は兴味深いテーマです。高桥さんは、女性研究者という视点も强みにしつつ、チャレンジングに取り组んでいきたいと思っています。
研究のアウトリーチにも果敢にチャレンジしている
文責:広報室 サイエンスコミュニケーター