TSUKUBA FUTURE #095:細菌との対話

生命環境系 豊福 雅典 助教
一人ひとりの力は小さくても、みんなが集まれば大きな能力を発挥する。これは细菌の世界にも当てはまります。単细胞の细菌も、じつは集団を形成して、あたかもひとつの多细胞生物のように振る舞っているのです。それが「バイオフィルム」です。台所の排水沟などにくっついているヌルヌルもそのひとつだと闻けば、あまり良いイメージではないかもしれません。しかし、细菌にしてみると、集団をなすことで、一部の细胞が死んでも全体は生き延びるので、よくできた生存戦略です。
ひとつのバイオフィルムの中に、たくさんの种类の细菌が含まれていることもあります。外侧から集まってくるものもあれば、内部で増殖するものもあり、环境に応じて形を変えたりもします。また、表面近くと奥とでも环境が异なるため、フィルム中のどのあたりにいるかによって、同じ遗伝子を持つ细菌でもその発现に违いが生じます。そのなかで、活発な部分が现れる一方で、一部は死につつも、全体として复雑な働きをするようになります。そのような集団を制御するには、メンバー间のコミュニケーションが欠かせません。细菌の「言语」は化学物质です。バイオフィルムからは、さまざまな化学物质が放出され、集団内の细菌同士や他のバイオフィルムへのメッセージとして伝えられます。

この小さな试験管の中には109个もの细菌が存在する
豊福さんが最近発见したのは、バイオフィルム内の细菌が、自分の细胞膜から小さな袋状の入れ物「ベシクル」を作り、この中にメッセージとなるシグナル物质を詰め込んで、これを外侧に放出するというコミュニケーションの仕组みです。ベシクルは环境中を漂いながら、中のシグナルを他の细胞に受け渡します。シグナル物质としては今のところ、数十种类の化合物が知られていますが、细菌によって、受け取ることのできる物质、つまり通じる言语が异なります。ですから、仲间を集めたり、环境の変化を知らせるためのメッセージの场合もある一方で、受け取っても意味がわからなかったり、受け取ってみたら毒だったというようなこともありえます。逆に、シグナル物质の意味を読み解くことができれば、人间が细菌にメッセージを送り、特定の働きをさせることもできるわけです。
个々の细菌は単细胞生物ですが、肠内细菌のバランスや、薬剤抵抗性の获得など、细菌を集団として考えないと説明できない现象がたくさんあります。悪さをする细菌だけを取り除こうとしても、ことはそれほど简単ではありません。健康维持、环境保全、食料供给など、人间の生活だけでなく地球上の诸々の生命活动の维持も、细菌なくしては成り立ちません。そのためにも、细菌の言语を理解して、かれらの能力をうまく利用したり制御することができれば、どれほどの恩恵がもたらされるかわかりません。
细菌からベシクルが形成?放出される様子は、顕微镜像を継时的に捉えた动画で确认することができます。こうすると、実际にどんなことが起こっているのかが、一目瞭然。こういったメカニズムの理解には、観察技术の开発も不可欠で、近年のバイオフィルム研究を支える重要な要素になっています。豊福さんの次の目标は、顕微镜や遗伝子组み替えといった研究手法を駆使して、ベシクルから拡散されたシグナル物质が集団内を伝わっていく仕组みや、集団を形成する个々の细胞の関わり合いを探ることです。
豊福さんが细菌に兴味を持ったのは大学3年时のこと。动植物の研究をしたいと漠然と考えながら研究室访问する中で、単细胞の细菌がコミュニケーションすることを知って衝撃を受けました。実际に研究に取り组んでみて、细菌学は普遍性と多様性の学问だと感じているといいます。个々の细菌は多様である一方で、集団として振る舞うときの现象は普遍的。その両面から、生命とは何かを理解しようとしています。
ベシクルは、私たちの周囲にもたくさん漂っているそうです。けれどもどのくらい远くまで届き、どんなタイミングでメッセージを発するのかは、まだわかっていません。环境中で採取したベシクルを分析してみると、まるでタイムカプセルのように、古代に作られたものが见つかることもありえるそうです。ひょっとするとそこには、地球上で何十亿年も生きてきた细菌の生き残る知恵が詰まっているのかもしれません。

ベシクルの电子顕微镜写真(左)とイラスト
球形のものがベシクル、桿状のものが细菌
文責:広報室 サイエンスコミュニケーター