TSUKUBA FUTURE #079:寝姿から探るハチの知られざる生態

生命環境系 横井 智之 助教
花から花へ飞び回り、花粉や蜜を集めているのは、ハチの中でもハナバチ类という种类です。その代表がミツバチ。女王バチを中心に、すべてメスの働きバチがせっせと子育てをします。このような社会性のある种类は、スズメバチなどの狩りバチ类にもいますが、数あるハチのなかでは少数派です。ほとんどのハチは、単独性なのです。単独性ハナバチのメスは、产卵用の巣を作り、昼间せっせと花粉と蜜を集めて団子をつくって巣室に置き、そこに产卵して巣を闭じるというのが一般的です。では、夜はどうしているのでしょう。もちろんハチも眠っているのですが、必ずしも巣で眠るわけではないようです。横井さんは、単独性ハナバチの生态に兴味をもち、そのねぐらに注目しました。
目をつけたのは、ミナミスジボソフトハナバチという単独性ハナバチ。九州の南にある南西诸岛で调査中に出合い、オスもメスも、昼间は単独で行动しているのに、夜になると数匹ずつの集団をつくって眠っていることを発见しました。しかも、予想に反し、たとえ巣作りの途中であってもそこで夜を过ごすことはなく、夜は别の场所に移动して眠っていました。

1本の叶につかまって眠るミナミスジボソフトハナバチのメス集団
もうひとつ、おもしろいことがわかりました。かれらは、切り通しから、地面1尘ほどの高さに垂れ下がった细い叶にしがみつくようにして眠っていたのです。しかも、详しく観察してみると、ねぐらに最初に到着したハチが叶の先端、つまり地面にいちばん近いところに止まり、そのあとは顺番に上の方に止まっていくというルールがありました。なぜでしょう。考えられる理由は、眠っているあいだに捕食者が叶を伝って袭ってきても、叶の先端近くにいる个体ほど安全だからというものです。叶の先端は早い者胜ちの特等席、昼间の活动を早く终えたハチほど、安全に夜を越せるというわけです。さらに、このルールはメスだけに见られるもので、オスでは止まる位置へのこだわりは见られませんでした。オスは、メスと交尾することが唯一の役割なので、巣作りを続けるために身を守る必要性がさほどないのかもしれません。それでも集団で寝るのは、みんなでいるほうが心强いということなのでしょう。それはともかく、こういう思わぬ発见がフィールドワークの醍醐味だと、横井さんは语ります。
ところで、ハチのねぐらを调べることにどんな意味があるのでしょう。ハナバチは、生态系において重要な役割を演じています。実用面では、花や作物の受粉を担ってくれる重要な存在です。ハナバチの保护を考えるなら、その活动场所すべてを保全する必要があります。昼间の活动场所だけでなく、夜间を过ごす场所が别の场所にあるとしたら、そこも守らないことには、そのエリアからハチは消えてしまいます。ハチがどこでどうやって眠っているかを调べることも、环境保全のためになくてはならない研究なのです。
子供の顷から虫好きではあったものの、昆虫学者になりたいとまでは思っていなかったという横井さん。文学にも関心があったため、文系か理系かで迷った末に、将来のことなどを考えて理系に进みました。そこで虫好きの魂が苏ったそうです。大学の卒业研究で、花にやってくる昆虫の行动を研究することになり、选んだのがハチでした。そして、季节を通して花と昆虫の関係を観察していくうちに、ハチに梦中になりました。研究の傍ら作っているハチの标本もかなりのコレクションになっています。
ファンの多い美しい蝶やかっこいい甲虫などに比べると、ハナバチはマイナーな存在。ましてや、养蜂に用いるミツバチや受粉に使われるマルハナバチ以外のハチは、研究対象になりにくい存在です。しかしそこに目をつけ、あえて他の人が研究しない种类のハナバチを扱うのが横井さんの目下のこだわりです。昆虫の行动を调べるには、なんといってもフィールドワーク。ハチたちがどんな场所でどんなふうに生きているのか、巣や饵场を探すところから始めます。北海道から冲縄まで、ハチを求めて全国を巡ります。もちろん、大学构内への目配りも怠りません。薮の中や崖の上を探索し、虫に刺されたり、蛇に出くわしたり、なかなかワイルドな研究生活です。新种のハチを探し出して、その生态をすべて调べてみたい。横井さんの冒険はこれからも続きます。

ハチのねぐらを観察する
文責:広報室 サイエンスコミュニケーター