TSUKUBA FRONTIER #006:いよいよ花開く藻類研究 バイオマスの秘められたパワーを世界へ
生命環境系 渡邉 信(わたなべ まこと)教授
1948年 宫城県生まれ
1977年 北海道大学大学院理学研究科博士课程修了
1978年 环境庁国立公害研究所(现:国立环境研究所)水质土壌环境部研究员
1994年 筑波大学大学院生物科学研究科教授(併任)
2001年 国立环境研究所生物圏环境研究领域长
2006年 筑波大学大学院生命环境科学研究科教授
藻类が地球をつくる

藻类。陆上植物と同じように光合成をする植物です。ただし、根や茎ははっきりしておらず、きれいな花も咲きません。けれども、生命の进化の过程で最も原始的なものである蓝藩类から私たちにも身近な海藻类まで、极めて広范な系统の植物を含みます。
分类的には下等な植物の藻类ですが、现在の地球を形作る上で重要な役割を果たしてきました。おおよそ30亿年前、地球がまだ原始の海に覆われ、大気のほとんどが二酸化炭素だった顷に、最初の藻类(蓝藻)が出现し光合成を始めました。生成した酸素が、海中の金属を酸化して鉄鉱石などの鉱物をつくり、大気を酸索豊富な组成に変えました。中东で产出する石油も藻类が由来です。1亿年ほど前に大繁殖した藻类が海底に沉み、高温高圧の环境下で石油になりました。人类の文明は藻类のおかげで成立したとも言えるのです。
このような大仕事をやってのけてきた藻类の潜在的なオイル产生能力を、资源として利用する研究に注目が集まっています。石油の代替として、一时期、陆上植物を使ったバイオ燃料が脚光を浴びました。しかしその多くは大豆やトウモロコシなど、本来は食粮となる作物を原料とするため、普及は进みませんでした。一方、藻类は食粮问题と相反せず、水と养分と光さえあれば栽培できるので农地も不要です。さらに陆上植物の数十?数百倍ものオイル产生能力があるのですから、これを使わない手はありません。
燃料から化粧品まで
未知の种も含めると1000万种を越えると言われる藻类の中から、选んだのは2つ、ボトリオコッカスとオーランチオキトリウムです。両种とも石油の主成分である炭化水素オイルを产生しますので、そのオイルは运输燃料として最适な原料であり、さらに化学製品や化粧品などの原料にもなります。まさしく、石油代替バイオオイルと言えるでしょう。

ボトリオコッカスは、1960年代から基础研究が続けられてきましたが、増殖が遅くオイル产生効率が低いという问题がありました。遗伝子操作で品种改良をしようにも、细胞の殻が硬く、従来の遗伝子导入技术が使えなかったのです。様々な手探りの末、ごく最近、ようやく新しい遗伝子导入技术が完成し、これから飞耀的に品种改良が进むと期待されています。
オーランチオキトリウムは、光合成をしない藻类で、顿贬础(ドコサヘキサエン酸)を作ります。顿贬础は鱼に含まれる健康成分として知られていますが、それは饵である藻が作り出し、鱼の体内に蓄积されたものです。さらに本学では、高级炭化水素であるスクアレンを蓄积するものを见つけ、大量培养に成功しています。スクアレンは保湿やアンチェイジングに効果があるとされ、付加価値の高い化粧品やサプリメントなどへの応用を検讨中です。
藻类バイオマス研究の数奇な道のり
藻类バイオマスの研究は、国际情势に翻弄され、中断?再开を繰り返してきました。最初にオイル利用の研究が始まったのは1970年代のアメリカでした。第1次オイルショックに见舞われ、石油に代わる燃料开発が急务となったためです。この研究は1990年代半ばまで続けられましたが、皮肉にもその顷、原油価格は安値で安定し、研究の必要性は失われていきました。
これと入れ替わるようにして、日本での研究がスタートしました。地球温暖化がクローズアップされたためです。藻类に二酸化炭素を吸収させようと、10年间にわたる大规模な国家プロジェクトが実施されました。しかし事业化のめどが立たないまま计画は终わり、以来、藻类研究に対する国の支援はほとんどなくなってしまいました。
次の波がやってきたのは2007年です。この时も石油高腾がきっかけでしたが、一过性の経済状况ではなく新兴国の急激な発展が原因であり、恒常的な対策として、再び藻类に世界的な関心が集まりました。筑波大学ではこの波が来る数年前に藻类研究に着手していました。初めは风当たりが强かったものの、有望な研究成果と2007年の波を契机に、国からの研究支援が再开されました。藻类は筑波大学でよみがえったのです。
社会还元へのステップ
多くの困难を乗り越えて復活を遂げた藻类研究。目指すは実用化です。これまでに培った生产技术を最适化し、市场竞争力のある生产コストを达成しようとしています。大规模な実証设备は筑波大学にしかない重要な研究拠点。生物学を中心とした基础研究から、スケールアップや用途开発に向けて、エンジニアリングや化学?医学なども含めた全学的な研究体制を整えつつあります。
エネルギーの多様化や地球温暖化は世界共通の课题です。経済原理とは别の次元で、欧米では航空机や军事に使用する燃料の一定割合をバイオ燃料に置き换えていくという方向性を明确にしています。日本もこの流れと无関係でいることはできず、既存の制度や行政の枠组みの改革の面からも、藻类バイオマスの実用化が急がれます。
燃料だけでなく、石油化学製品、化粧品やサプリメントなど、無限の可能性を秘めた藻類バイオマス。産業化を視野に、民間企業80社が参加するコンソーシアムを立ち上げ、情報交換や市場開拓も積極的に行っています。技術的な裏付けをしっかりと確立し、それを糧に社会还元へのステップを着実にクリアする。その先では藻類の花が咲き乱れているに違いありません。

(文責:広報室 サイエンスコミュニケーター)