TSUKUBA FRONTIER #032:真核生物の起源を辿る 計算科学で埋めていく進化のパズルのピース

计算科学研究センター 稲垣
稲垣 祐司(いながき ゆうじ) 教授
PROFILE
1995年に名古屋大学理学部で博士(理学)を取得。1996-1997年、奨励研究员として(株)闯罢生命誌研究馆にて勤务。その后、日本学术振兴会海外特别研究员としてカナダ?ダルハウジー大学へ2年间派遣され(1998-2000年)、引き続き同大学で博士研究员として4年间勤务(2001-2004年)。2004年4月に长浜バイオ大学讲师として帰国、2005年8月筑波大学に助教授として着任。2016年より现职。
生物の系统树を计算で调べる
ヒトとサルが同じ仲间の生物であることは、互いの见た目が似ていることからも推察が可能です。同様に、顿狈础の配列が似ていれば、近い系统の生物であると考えることができます。生物间の系统関係がどのくらいの确率で确からしいのかを计算し、その配列がどのように进化してきたかを探るのが分子系统学です。
地球上の生物は、一つの生物から分岐して、多様な种へ変化しました。もちろん、最初の生物はすでに存在していませんし、顿狈础配列中のシグナルは、进化の过程で上书きされてしまうので、古い歴史を示すシグナルほど、现在の生物からは失われていきます。それでも何かしらの名残を见つけるために、大量の遗伝子や転写物のデータを使って解析を行います。そうすることで、过去の系统関係が高い信頼性で復元できます。このような作业を重ねて生物の系统树を遡れば、その大本に辿り着けるはずです。
进化の研究といっても、対象は様々です。人类の祖先を探ったり、作物がもつ遗伝子の机能を调べるような、比较的わかりやすいテーマもある中で、特に兴味があるのは真核生物、つまり动植物や菌类など、遗伝物质(染色体)が核膜で覆われているような生物の起源です。进化の初期を知ることは、私たちの日々の生活の役に立つわけではありませんが、地球上で生物がどのように诞生したのか、多くの人が関心を持っているでしょう。
まだ知らない生物を见つけ出す
私たちが知っている生物は、生物全体のごく一部にすぎず、まだ谁にも知られていない、分类されていない生物が、进化に関する重要な键を握っているかもしれません。ですから、未知の新しい生物を発见することも、大事な研究活动です。そういう生物の系统的な位置付けを、大规模なデータ解析で正确に推测することで、系统树の全体像が少しずつ明らかになっていきます。でも今はまだ、その大きなパズルのピースが全部そろっていない状态。そのピースを探しながら、解析を进めています。
新种の生物は、筑波大の构内にある池や土の中にもいます。実际、兵太郎池から见つけた新种の微生物に「ツクバモナス」と名付けて报告しています。他にも、协定校のあるマレーシアなどでサンプリングを行ったりもします。そのような新种は、そこにしかいない、というわけではなく、どこにでもいるものですが、それを见つけ出すことは容易ではありません。目に见える大きさの动植物は、研究し尽くされていますから、探す新种は微生物です。採取した土や水の中から顕微镜観察で选り分け、遗伝子配列を调べて他の生物と比较し、それがどの系统に属するかを同定したり、どこにも帰属しない场合はさらに详しく调べます。

生物学から计算科学へ
もともとの研究テーマはバクテリアでした。系统树とは异なりますが、遗伝暗号の进化を研究していて、进化にはずっと兴味がありました。计算によって系统树を解析する手法は、20世纪后半ごろから提案されていましたが、当时は计算机の性能が低く、顿狈础配列のデータも少なかったため、できることは限られていました。しかし、遗伝子についての解明が进み、高性能の计算机も登场して、系统関係を知るための手段として手軽に使えるようになりました。
计算机や计算手法に精通していなくても、ソフトウェアは豊富にあるので、あまり苦労は感じません。物理学などに比べれば、计算量もそれほど多くはないものの、1回の计算には、スパコンを使って1~2日かかります。データ量や条件を変えながら、繰り返し计算しますから、なかなか大変な作业です。とはいえ、筑波大は生物学も计算科学も世界的にもトップレベル。その両方の研究者と协力して研究できるのは、大きなメリットです。
単细胞生物でも、ヒトの100倍以上のゲノムを持つものも珍しくありません。その中には、繰り返し配列や意味不明の配列もたくさんあり、解析は复雑です。进化の过程で他の生物から取り込んだ遗伝子が含まれていることも多いので、遗伝子配列のデータベースと照合して、それらの配列の由来を明らかにすることが重要です。新しい配列が见つかれば、データベースに登録し、世界中で共有するのがルールです。
直感力も研究を前进させる大事な资质
真核生物の祖先は、古細菌の一部の系統ではないかと考えられていますが、地球上に山ほどいる古細菌のほとんどは、これまで見過ごされてきており、培養もされていません。サンプルから生物を単離するのではなく、環境中に存在しているDNAを一括して取り出し、それを解読するメタゲノムシーケンスという方 法が登場し、膨大な解析ができるようになりました。混合物の中からさまざまな特徴の配列データを見つけ、復元することもできます。これによって、これまで培養されていた古細菌とは全く異なるバクテリアがたくさんいることがわかってきました。
究极の研究目标である、一番原始的な真核生物を知るためには、データや解析技术はもちろんですが、それぞれの计算で何を明らかにするか、结果としてどんな情报を得たいか、を适切に设定するセンス、直感も必要です。いくら计算机の能力が向上しても、手当たり次第に计算するのはあまりに不効率。そのセンスを养うのは、兴味を持つことに尽きます。兴味の范囲外のものは见逃してしまうこともありますが、知りたいという気持ちの强さが、直感力も高めるのです。
どんどん変わるパズルを解き続ける
従来信じられていた生物间の近縁性が、新しい研究によって覆ることはしばしば起こります。それは解析手法の进歩や、どのような前提条件に基づいて解析するかによるもので、过去の研究が间违っていたということではありません。ですから、今の技术や知识でできる最善の解析をして、现时点で最も确からしい结果を提示する、というのが、研究と向き合う正しい姿势です。その结果も、将来、书き换えられるかもしれないのです。
新しい知见が得られれば、系统树のパズルのピースも细かくなっていきますし、パズル全体のサイズも大きくなったり、ピースが足りない部分も见つかるでしょう。进化のごく初期を研究する竞争相手は多くはありませんが、研究すればするほど、分からないことが増えていくのが、この领域の特徴でもあります。それを一つひとつ解き明かしていく。系统树の全貌が明かされるまでには、まだまだ果てしない道のりが続きます。
筑波大学 計算科学研究センター 微生物分子進化研究室

地球上に生息する生物种のうち真核微生物に焦点を当て、その进化の道筋を解明するため、遗伝子(顿狈础)塩基配列やタンパク质アミノ酸配列などの大规模データを、スーパーコンピューターを用いて统计学的に解析し、系统関係を推测している。様々な自然环境からの新しい微生物の採取?単离や、より精度の高い系统解析法の研究にも取り组んでいる。これらの研究を通じて系统树を遡り、最も原始的な真核生物の姿や遗伝子构造に迫ることを目指す。
(研究室鲍搁尝: )
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